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体温

裸の身体に触れる毛布は柔らかで気持ちがいい。微睡んだままスクアーロは枕の下に手を入れた。ぎゅっと右手が枕を握り締める。腰に触れた腕が、絡む。薄く目を開いて隣を見ればザンザスがぼんやりとしたまま擦り寄ってくる。裸の腰と腰が触れる、足が絡まる、引き寄せた腰はそのままにザンザスは頬をスクアーロの胸に押し当てた。
義手を外した剥き出しの左腕。柔らかな肉を纏い、丸みを帯びたそれで頬を撫でてやれば、ザンザスが微笑んだ。
身体に馴染んだ体温が、心地よくて二人で眠りの世界へ落ちていった。



何度も共に眠った。
離ればなれになる前も、二人でベッドに寝転んではどちらかが眠りに落ちるまで他愛もない話をしていた。なにが面白かったのかと言えば全部が面白く、心地よい夜だった。二人で眠るベッドはあたたかだった。

「明日はなぁ、ちょっと北のほうに行ってみようと思ってんだぁ」
「学校はいいのか」
「ハッ、んなとこ行ったってなんも意味ないぜぇ」
「そうか…」
「御曹司ぃ?眠いんなら寝ろよぉ、なんか心配なら寝ずの番でもしてやろうかぁ?」
「いらねぇよ」
「ひっでぇ!」

軽口を叩いて笑い合う。その瞬間は、二人とも年相応だった。間違いなく14歳と16歳だった。小さな灯り、迫る闇に心細さを感じていたのかもしれない。寄り添う体温は、いつもスクアーロとザンザスを互いに安心させた。駆け引きも虚勢もない、対等な時間だった。

「痛みは、ねぇのか」

丸みを帯びた左腕を指差される。まだ縫合の後が生々しいそれは、常に包帯が巻かれていたがザンザスは眠るときに包帯で隠すことを許さなかった。
気紛れを装って、尋ねる。
その声音に何かをスクアーロが感じるようになったのは、まだ最近のことだった。

「痛くないぜぇ」
「嘘吐いたら殺す」
「……たまに痛いデス」
「ぶはっ」
「んだよぉ、御曹司が言えっていったんだろぉ」

拗ねたように唇を尖らすスクアーロを見て、ザンザスは肩を震わせた。温かな右手が伸びてスクアーロの左腕を掴む。引き寄せたそれをまじまじと見て、おもむろに唇を寄せた。

「うっ、ぁ!」
「んだ、痛てぇのか?」
「ち、違っ…なんかそれ、変だから!縫い目、ぞわぞわすんだぁ…!」
「指先舐められてるみたいだろ」

肉厚の唇が押し付けられたまま、そこで話される感覚にスクアーロは首を竦める。ぞわぞわとした感覚が広がり、どうも笑ってしまう。情けない声をあげながら、スクアーロは嫌々と首を振った。

「御曹司ぃっ」
「あ?どうなんだ?」
「ゆ、指なんか舐められたことねぇからっ、分かんねぇっ!」

ふ、と。息だけで笑う。

「あったら殺す」
「んん゛…?」
「寝る、灯り消せ」

う゛ぉお…と声を漏らしながらも右手を伸ばしてランプから伸びる紐を引く。カチリと音が鳴って、灯りが消えた。厚いカーテン。閉ざされた月明かり。部屋の中は暗い。

「おやすみぃ」
「…カスザメ」
「なんだぁ?」

寒い、寄れ。

「おぅ…」

互いの体温が、初めて知った体温だった。薄い皮膚から伝わる肉が、熱が、骨が、血流が、鼓動が、魂が。



「お前が好きだぁ…」

囁いて抱き締めれば、胸元に顔を埋めたまま笑う。息がかかる。

「知ってる」






(初めて知った体温は、貴方でした)


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あきゅろす。
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