舌先に愛を乗せる ボンゴレの守護者、山本の部屋にはたくさんのお菓子セットがある。 テーブルの上はもちろん、棚の中にはヨーカンという物も入っているのをスクアーロは知っていた。 「栗羊羹がさ、送られてきたのな」 「へぇ」 「食べるか?」 「いらねぇ、甘ったるすぎて胸焼けしちまう」 「前の羊羹よりは甘くないと思うけどな」 「ヨーカンには変わらないだろぉ」 時折スクアーロと山本は、こうして二人でゆっくりすることがあった。 と言っても、稽古を山本が頼んだり、スクアーロがザンザスの共として本部に来たときに限られてしまう。 今日もスクアーロが本部への報告書を出しに来た帰りを捕まえたのだ。 「スクアーロはさ」 「なんだぁ」 「本部嫌い?」 「嫌いだなぁ」 「ははっ、直球だな!」 「嘘吐いたって仕方ねぇだろぉ?」 日本人は直球が苦手なんだよ、そう言えばスクアーロはそうだったなと笑った。 「お前らが直球だから忘れちまうんだぁ」 「特に誰?」 「あ゛ー、獄寺と、あと骸も直球だなぁ。直球ってか、骸には嫌味言われるぞぉ」 「それは骸とザンザスが仲良しだから。きっとザンザスの愚痴でも聞いてるんじゃないのか?」 「最悪の味方だなぁ」 「骸は口がよく回るのな!俺たまについてけなくなる」 「お前はボキャブラリーが少ないんじゃねぇのかぁ?」 「ひでー」 山本が笑うと、スクアーロもつられて笑った。 しばらく談笑を楽しんでいると、スクアーロがちらりと時計に目配せする。 「時間?」 「明るいから気付かなかったぜぇ、もう夕方になってたぞぉ」 「えー、早い時間が経つの!」 「仕方ねぇだろぉ」 ソファでクッションを抱えながら嘆く山本を見てスクアーロは苦笑し、隊服の上着を着た。 キッチリとボタンを留め、山本の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。 「ぎゃ、なんなのな」 「ちゃんと飯食ってウエイト増やせよぉ?じゃないと今日みたいに吹っ飛ばされるからなぁ」 「うん。なぁスクアーロ、次はいつ稽古出来るんだ?」 「そうだなぁ…。次に任務が落ち着くのは半月後かぁ?」 「じゃあそしたら稽古、お願いスクアーロ!」 「約束は出来ねぇぞぉ」 「それでもいいのな!」 キラキラとした目で見てくる山本にスクアーロはもう一度頭を撫でてやる。 乱れた黒髪はスクアーロの指を通って元通りになった。 「頭に入れておいてやる」 「やった!じゃあー、はい、これザンザスに!」 「飴?」 山本がテーブルに置かれたお菓子入れから数個の飴をスクアーロに手渡す。 スクアーロはそれ受け取りポケットへ入れた。 「ザンザスにも仕事根詰めるなーって。糖分がいいのな」 「ありがとなぁ、渡しとくぜぇ」 ドアを開けるスクアーロにまたな!と声を掛ければ振り返らずに右手を振られる。 静かに閉まったドアを確認して、山本はごろりとソファに寝転がった。 もうすぐ獄寺あたりが食事を知らせに来るだろう、いっぱい食べなければと、山本は今日の稽古を振り返った。 ヴァリアー本部、執務室にて書類に目を通していたザンザスは乱暴に開けられたドアを睨み付けた。 「うっせぇ」 「悪ぃなぁ、今帰ったぜぇ」 悪びれた様子もなく書類を渡したスクアーロに舌打ちで返事をし、ザンザスは本部からの確認通知に軽く目を通した。 「あんたまた綱吉の誘い断っただろぉ」 「どの誘いだ」 「食事、買い物、相談」 「全部断ったな。大体なんで綱吉の相談に乗らなきゃならねぇ」 「あのなぁ…。言われたぞぉ?せめて携帯の着信拒否は解除させてくれってなぁ」 ザンザスは鼻で笑うと椅子に深く座り直した。 取り出した携帯を弄ると、パチンと閉じて机に置いた。 「ったく、これで文句ねぇだろ綱吉も」 「あんまりイジメるなぁ。それ以上やるとまた獄寺が怒鳴り込んでくるぜぇ?」 「ベルにでも遊ばせとけ」 「被害が広がんだろぉ…」 それもそうだな、とザンザスは笑った。 スクアーロはそうだぜぇ?と返すと、何かを思い出したようにポケットに手を入れる。 「これやるって」 「何が」 「ほら」 スクアーロが取り出したのは、色とりどりの飴が数個。 ザンザスはそのひとつを手に取るとスクアーロを見た。 「山本に貰ったんだぁ、あんたにだとよ」 「山本、稽古でもつけたのか」 「あぁ、そのあと話してた」 ふうん、と頷いてザンザスは包みを破る。 香ったイチゴの匂いは、口に入れればより強く香った。 「いちご」 「だなぁ、こっちまで匂う。山本があんまり根詰めるだと」 「はっ。テメェのボスのせいで迷惑してるって伝えとけ」 「だからイジメんなぁ」 スクアーロは笑うと包みをひとつ手に取る。 緑のそれは恐らくメロン味。 「メロン?」 「メロン、美味いなこの飴」 「山本の選ぶ菓子はハズレが少ない」 「あぁ、でも前に食べたヨーカンは無理だった」 「そうか?俺は平気だった」 甘い物で気が凪いでいるのか、穏やかな空気。 と言っても、何もなければ基本的にスクアーロは静かだし、ザンザスも穏やかなのだ。 「あー、でも飽きるなぁ」 「早ぇよ」 「ザンザス、交換しようぜぇ?」 「いいぜ、カスのくせに生意気だな」 「どーも」 スクアーロの長い髪をザンザスが一房掴み、優しく引っ張る。 スクアーロは抵抗せずに机越しに顔を寄せた。 ふわりと香った甘い匂いに笑いながら唇を合わせる。 「口、あけろぉ」 「ん……」 ころりと、舐めていたメロンの味をザンザスの口内へ転がしてやり、イチゴを掬い取ってやる。 唇を一度強めに押し付け離れる間際に、ザンザスがぺろりと唇を舐めていった。 「やっぱり甘いなぁ」 「メロンも美味い」 「よかったなぁ」 (甘いあまい、触れた舌先から伝わる愛はメロン味) ←→ [戻る] |