黒猫と銀狼D 医者の判断で黒猫は車に乗せられ、町の病院に入院することになった。 奇跡的に、骨も折れておらず、脳に異常も見られなかった。 ただ、ひとつだけ。 黒猫の白い肌、左頬と額に、傷跡が残るだろうと医者は言った。 「…傷跡がなぁ、残っちまうんだと、お前」 スクアーロは黒猫の左頬に当てられたガーゼを優しく撫でた。 黒猫は鎮静剤で穏やかな寝顔を見せている。 黒猫のことを、テュールが役場に知らせておいてくれた。 どうやら黒猫はヴェンテミリアの中心街から来たらしく、そこからよく似た背格好の青年の捜索願が出されていたそうだ。 スクアーロは微笑むと、もう一度だけ黒猫の頭を撫でてやり、部屋をあとにした。 あと一時間程で、家族が迎えにくるからだ。 スクアーロは家族からお礼をしたいと言われたが断った。 そういうのが、ひどく気恥ずかしくて、自分の柄ではないと思っているのだ。 スクアーロは、テュールにあとをお願いして帰ることにした。 テュールからも礼ぐらいと言われたが、スクアーロは一度決めたら引かない。 「じゃあなぁ、黒猫」 それからひと月が経ったとき、スクアーロはテュールから依頼の郵便を受け取った。 差出人はヴェンテミリアの中心街に暮らす男性。 脚を患ってしまい、長時間歩くことが難しいこと、直接会って依頼をしたいが仕方なく手紙で依頼をしたこと、もしよければ中心街に来てもらい作品のイメージを直接話したいことが丁寧に丁寧に書かれていた。 スクアーロは中心街に調度用事があったので、了承の手紙を返した。 列車に揺られて数時間、ヴェンテミリアの中心街に到着するとスクアーロは真っ先に鍛冶屋に向かった。 馴染みの職人に愛用の小刀の手入れを頼みに来たのだ。 鍛冶職人は笑顔で小刀を受け取り、スクアーロはその足で手紙の男性を訪ねた。 「でっけぇ…」 差出人の家は豪邸と呼ぶのが相応しい屋敷だった。 チャイムを押し、インターフォンに向かって名乗ると重厚な鉄檻が自動で開く。 キョロキョロと庭を見渡しながらスクアーロは石畳の道を歩き、屋敷の入り口にたどり着いた。 そこに待機していたメイドに案内され、屋敷の最上階へ連れて行かれる。 「こちらが旦那様の執務室になります」 「は、はぁ」 メイドは役割を終えたのか、そのまま去っていった。 スクアーロは少し戸惑ったが、目の前の扉をコンコンとノックする。 「どうぞ」 「失礼します」 扉を開けて部屋に入ると、迎えてくれたのは初老の男性。 杖をつきながらも立ち上がり、スクアーロをソファに座らせてから男性も腰を下ろした。 「君の評判を耳にして、是非と思ったんだ」 「ありがとうございます。あの、名前を聞いてもいいですか?」 「あぁ、これは失礼した。私はティモッテオと言います、ボンゴレを知っているかな?」 「ボンゴレ?焔メーカーのですか?」 「そう、その会社の社長をやっています」 「……え」 男性は、ティモッテオは、スクアーロの目を見ると優しそうに笑った。 スクアーロの頭の中は混乱していた、目の前にいるのがボンゴレの社長、そんな人が何故自分のような若手を知っているのか疑問に思った。 スクアーロの彫刻が高い評価を集めているということを、自分のことに興味のないスクアーロは知らないのだ。 「こうでもしないと、君に会えないと思ったんだ」 「え…?」 「あの子を、ザンザスを助けてくれてありがとう」 スクアーロは、息を飲んだ。 ←→ [戻る] |