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黒猫と銀狼B

スクアーロは北部の街「モデナ」の出身。
工業の街として栄えるモデナは、多くの職人たちが暮らしていた。
スクアーロは狼の中でも珍しい、銀の毛並みを持つ狼だ。
銀の狼は昔から生まれながらにして高い技術を身につけていると伝えられており、スクアーロも木彫り専門の職人として注目される若手だった。
幼いころから誰に教わったわけでもなく、小刀を片手に黙々と木の板に模様を彫り込んでいた。
スクアーロ自身は、まわりの大人たちがやっているのを見様見真似でやっていただけだったが、自分の手から作り出される彫刻の奥深さに魅せられ、今では立派な木彫り職人だ。
ただ、スクアーロには欠点がある。
スクアーロはあまりにもマイペースで、自分が彫りたくないと思ったら最後、依頼すらはねのけてしまうぐらい頑固な一面があるのだ。
好きなように、気に入るように彫りたいだけなのだ。
あまりにも大人たちがうるさかったので、スクアーロはこうして一人でモデナを出て、ヴェンテミリアの郊外で暮らしてた。
気に入った依頼があればそれを受け、金にしている。
贅沢は出来ないけれど、する気もないので自由な一人暮らしを満喫していた。

その日の夜、スクアーロは完成したばかりの彫刻にサインを彫り終えた。
様々な角度から見て、光を当てて、ふっと木屑を飛ばして彫刻を机に置く。

「あ゛ー、…疲れた」

朝からずっと作業台の前に陣取って、一心不乱に小刀を動かし続けていたスクアーロは、ひとつ伸びをすると窓の外を見る。

「(いつの間に雨降ってたんだぁ?)」

スクアーロは服に付いた木屑をバサバサと払うと、薄手のコートを着て傘を持ち、外へと出た。
スクアーロは雨が好きなのだ、特に雨の日の散歩が。
なにも考えずに、ぼーっと雨の中を歩くと頭がすっきりして良い作品が彫れる、幼い頃からそうだった。

しばらく歩いたとき、橋の上でスクアーロの目がなにか不自然なものを捕らえた。
気のせいかと思いながらも、気になって目を凝らす。
真っ暗な闇の中、狼の目はどんな種族よりも夜目が利くのだ。

「…まさか、」

闇に浮かび上がる、ぼんやりとした白。
焦燥感に駆られて、急いで川岸に近付くとそれが獣人であることに気付いた。
泥と、血にまみれたシャツは所々で破け、傷だらけの肌が見えている。
そして、その獣人は、黒猫はぴくりとも動かない。

「おい!あんたっ!」

スクアーロは傘を投げ捨て、コートを脱ぐと川へ飛び込んだ。
まだ冬ではないと言っても水温は低く、冷たいというよりも痛く感じる。
スクアーロはバシャバシャと中洲に近付くと、張り出た木の枝に引っかかっていた黒猫を掴み、岸まで運んだ。

「おい!おい、聞こえるか!?」

べちべちと頬を叩いても、思い切り揺さぶっても黒猫は反応しない。
スクアーロは慌てて胸に耳を当てる。
聴覚は、弱い心音を辛うじて聞き取った。
しかし口元に当てた手に呼吸は感じられない。

「死ぬなぁっ!」

正しいやり方かは分からなかったけれど、スクアーロは必死で人工呼吸を繰り返した。
何度も何度も、死ぬな、生きろと念じながら息を吹き込んでいく。
触れた唇は、氷のように冷え切っていた。

「ぐ、…ごほっ!げほっ!」
「!」

黒猫の口から、飲み込んだであろう水が吐き出された。
スクアーロは黒猫の体を横にしてやり、水を全て吐かせる。
ようやく水が出なくなって、スクアーロは手を口元にそっと近づけた。
弱いけれど、確かに感じる黒猫の呼吸。
ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、スクアーロはコートで黒猫を包むとぎゅうっと体を抱き締め、急いで家に運ぶため駆け出した。
このまま雨に濡れさせてはいけない、早く暖めなければ。
スクアーロはさらに強く黒猫を抱え直し、走る速度を上げた。



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あきゅろす。
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