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黒猫と銀狼@

ティモッテオに拾われ、ザンザスと名付けられた黒猫はすくすくと育った。
警戒心が強く、まわりの獣人たちが皆大人なせいもあってかザンザスは心の内側をあまり見せないまま育った。
それでも自分を拾ってまわりの反対を押し切り、育ててくれたティモッテオには少しだけ素直だった。
でも、幼いころにティモッテオが重役たちに何故自分を養子にしたのか、何故もっと血統の良い子供を選ばなかったのかと責められているのを影で見ていたから、ザンザスはティモッテオに対して負い目があった。
不器用なザンザスをティモッテオは怒ったりしなかった、優しく見守り、たまに頭を撫でてやった。
負い目をザンザスが感じていること、誰よりも繊細な心を持っていることをティモッテオは分かっていたのだ。

ザンザスは一生懸命、勉強に勉強を重ねた。
少しでもティモッテオの役に立ちたかったから、少しでもまわりの大人たちに認めて貰いたかったから。
勉強に明け暮れ、ついには次期社長にザンザスをという声まで挙がるようになっていた。
でも、ティモッテオは少しだけ悲しそうな目でザンザスを見ていた。
ティモッテオは、ザンザスにもっと自由に、思うままに生きて欲しかったのだ。
しかし、会社一筋で生きてきたティモッテオには、それを伝える術が分からなかった。
ザンザスは、ティモッテオが喜んでくれていないことを敏感に察知していた。
そんなある日、少しだけ寂しい気持ちで屋敷の中を歩いていたとき、上層部の幹部たちが話しているのを聞いてしまった。

やはり社長はあいつを選ぶのか、路地の死にぞこないの猫、あいつは泥棒猫でしかない、会社を渡してたまるか、あんな奴の下で働くなど嫌だ。
ザンザスの尻尾がピンと立ちあがる、慌てて尻尾を自分の両手で握り締め、静かに、急いでその場から離れた。
急ぎ足で歩くなか、ザンザスの視界がぐにゃぐにゃと揺れている。
ザンザスは零れそうになる涙と嗚咽を必死で噛み殺し、自室に戻るため廊下を曲がった。

「ザンザス?どうしたんだ?」

犬の家光だ。
勢いよく曲がった先にいた家光に、ザンザスはぶつかった。
反動でよろけたザンザスの肩を、家光はとっさに掴んで支える。
その手をザンザスは振り払った。

「さわ、るなっ!」
「なんだよー、おじちゃん泣くぜ?そんなに拒絶すんなって」
「うるさ、い…っ」
「はぁー、あのなぁザンザス。もう少し人の気持ち考えろよ?そうやってツンツンしてると嫌われちまうぞ?」
「………っ」

家光の言葉が、ぐさりとザンザスの心に刺さる。
俯いた視界は、ぐにゃぐにゃと零れそうな涙で歪み、今にも涙が落ちてしまいそう。

「…ザンザス?」
「どうせ、」
「?」
「どうせ俺は、死にぞこないの猫なんだ」
「ザンザス、どうしたんだ?そんなこと言うんじゃ、」
「俺なんか、あの時死んでれば良かったんだろ!」

勢い良くあげられたザンザスの両目は、涙に濡れていた。
その勢いと、悲痛な叫びに家光は一瞬言葉を失う。
ザンザスはするりと家光の横を抜けると、走り出した。

「っ、ザンザス!」

家光は犬なので、足は早い方だが追いつけなかった。
ザンザスは廊下の突き当たりある窓を開け、僅かに出ている柵を足掛かりにしてあっという間に地上へ降り立ってしまう。
猫の身軽さは、犬の家光には持ち得ないものなのだ。

「ザンザス!」

家光の声に振り返ることなく、ザンザスは高い塀を乗り越えて見えなくなってしまった。
家光は部下とティモッテオに連絡をすると、自分もザンザスを探すため、急いで階段を駆け下りた。



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