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僕達と君達の毎日D

「ザンザス…っ」
「うるせぇ!お前なんか知るかドカス…っ!お前なんか、スクアーロなんか…、大っ嫌いだ!」

本当はスクアーロが悪くないことをザンザスは知っていた。
ただ勝手に寂しくなって、勝手に怒って。
夜の闇に飲まれた森を駆ける、ザンザスの頭は妙に冷静だった。

「はぁ…っ、は…ぁ…」

気が付けば村にある小さな駅前に辿り着いていた。
荒い息と激しく脈打つ心臓、ゴウゴウと流れる血流が聞こえる。

「はぁ…っ…、…っ」

なんで。
大嫌いだなんて、言ってしまったんだろうか。
夜の空気は思っていたよりも冷たくて、体が冷える。
冷たいはずなのに瞳の奥が熱い、喉も熱い。
あぁ…泣きそうだ、そう思った時に小さな音がザンザスの耳に入った。

「……?」

ふらふらと音に呼ばれるように近付けば、駅前の階段横に小さな小さな灯り。
それがランプの灯りだと認識出来るころには、その横に座る獣人の姿も確認出来た。
ザンザスと同じ、黒猫。

「ワォ、泣きそうだね君」
「な…っ!」
「座りなよ、どうせすぐには帰らないんでしょ?」

そんな雰囲気だ。
言われて従うのは癪だったが、行き先も決めずに家を飛び出して来たザンザスは黙って隣に腰を下ろした。

「君は、ザンザスかい?」
「なんで知ってやがる…」
「ここにいると、色々な話が聞けるんだ。僕は恭弥、たまにここで歌ってる」
「歌ってる…?」
「そう、これでね」

爪弾かれるギターの音。
やけに柔らかく聞こえたそれは、きっと素材となった木の特徴か、あるいは恭弥の弾き方なのか。
ザンザスはギターに対する知識はないが、きっとスクアーロがいれば何かしら知っているだろうと思い、そう言えば喧嘩をしているのだったと思い出して表情を曇らせた。

「…別に聴いても聴かなくてもいいから。というか、君のために歌うわけじゃないから」
「…お前、素直になれよ」
「それは君に返す言葉だ」

そう言われればザンザスは口をつぐんだ。
『素直になれ』、誰に?
そんなの分かってる…。

泣かせるわけでもなく、笑わせるわけでもない。
ただヒンヤリとした手が、ヒリヒリと痛む箇所にそっと置かれるような、そんな心地好さ。

隣から聞こえる歌に、ザンザスはぎゅっと膝を抱え、耳を伏せた。
音が、途切れる、沈黙。

「…素直が美徳とも限らないよね」
「お前…どっちなんだよ」
「さぁ?ほら、意地っ張りな君を探しに来たよ」
「え、」
「妬けちゃうね、僕も帰るとするよ」

顔を上げれば、髪を乱したスクアーロが立っていた。
恭弥は一度尻尾をザンザスのそれと絡め、ギターをケースにしまう。

「ザンザス…っ!」
「スク…、ごめんなさい…」
「あ、…えっ?」
「ごめんなさい…スクアーロ…っ」
「う゛ぉおい…怒ってねぇぞぉ」

そんなやり取りを背に、恭弥はクスリと笑う。
集まる村人の話しに聞いていた通りの二人。
意地っ張りな黒猫と、そんな意地っ張りな黒猫が大好きな銀狼。

(たまには素直ってのもいいかもしれないね、テツ)

あの二人を見て、そう思う黒猫が帰る場所も温かい。



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