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僕達と君達の毎日B

海を視界に入れれば、ザンザスは身震いをひとつした。ザンザスにとって海はただの水でしかない、しかも大量の。
ふるふると嫌な考えを振り払うように頭を数回振って、ザンザスは海辺に建つ一件の店へと足を向けた。

「あー、ザンザスら!何しに来たびょん?骸様なら発注でいないびょん!」
「…クロームに」
「はぁ?あんな女に会いに来たんびょん?」
「犬、やめなよ…めんどい」

キャンキャンと吠える犬を宥めたのはミシンをひたすら操る千種。奥にいる、とだけ告げると千種は黙々とミシンを動かした。犬の標的が千種に移った隙にザンザスは奥の部屋へと入る。いくつかの扉を開ければ、クロームは窓辺にある椅子に座っていた。

「来てくれたの…?」
「来たらダメか?」

クロームの隣に椅子を持ってくるとザンザスは腰をおろした。クロームは顔を赤くしてきゅっとスカートの裾を握る。そっと差し出されたザンザスの尻尾に、戸惑いながらもクロームの尻尾が絡まった。

「来てくれて、嬉しい…」
「そうか」

時々こうしてザンザスはクロームの元を訪れる。とくに何を話すわけでもないが、猫同士は尻尾を絡めれば何となく気持ちが伝わるのだ。
きゅうきゅうと尻尾を絡め、たまに会話をする。体が弱いため、クロームはあまり外には出られない。だからこうして会いに来てくれるザンザスの優しさが嬉しかった。

「昨日ね、骸様とケーキを」
「…焼いたのか?」

コクリとクロームは頷くと、もじもじと俯いてしまう。ザンザスは焦ることもなく黙って待つ、きっと何か伝えたいことがあるから、気持ちの整理がつくまで待ってやる。

「あの、その…」
「ただいま戻りましたよ。おや、ザンザス」
「…邪魔してるぞ」

戻ってきたのは骸、中央街にまで名の知れた服の仕立て屋である。この店は骸の店で、服の修繕からウェディングドレスまで手広く作り上げる。と言っても一般的な修繕を担当しているのは千種と犬で骸はあまり店には顔を出さない。こうして店の奥で個人依頼の仕事をこなすのだ。

「クローム、ザンザスには言いましたか?」
「あの、…まだ」
「おやおや。恥ずかしがることではありませんよ」

クロームは骸に駆け寄り、背中に隠れるとふわふわの尻尾を抱き締めた、骸は狐の獣人なのだ。
以前、尻尾を抱き締めると落ち着くとザンザスはクロームから聞いていた。
骸とクロームは兄妹ではないが、小さな頃から一緒に、千種や犬も同様、家族のように育ったらしいと聞いていた。
骸はきっと、ここにいる獣人の親代わりのような存在なのだろう。

「あの、ね、ケーキ…焼いたから。骸様と作ったから、味は大丈夫…」
「クロームが一生懸命焼いたんですよ」
「だから、…ザンザス、貰ってくれる…?」
「あぁ、もちろん。クローム、ありがとうな」

そう礼を言えばクロームは益々照れたのかぎゅうっと骸のふわふわの尻尾にしがみついた。
そんな光景を見て骸も、ザンザスも微笑む。

「ザンザスに食べて貰いたいと、一生懸命作っていたんですよ?クフ、クロームには言わないでと言われているのですが」

そう帰り際にこっそりと告げられ渡されたケーキの箱。慎重に持って帰ってスクアーロと食べたそれは優しい味がして美味しかった。



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あきゅろす。
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