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僕達と君達の毎日@

森の中をザンザスは少し急ぎ足で歩いていた。森に咲く花のまわりを飛んでいる蝶々を見掛けるたびに好奇心が疼いて尻尾がせわしなく動くが、甘い誘惑を振り切ってザンザスはひたすら歩いた。その手にしっかりと握られているのは真っ白な封筒。定期的に遠い街に暮らしている父親へ送る手紙である。
木々の間を抜ければ足元はレンガの敷き詰められた広場へ。その中心にあるのがこの村の小さな役場。チリンと扉を開けば鳴る音に役場で働く京子が顔を上げた。

「ザンザスさん、こんにちは!今日はお手紙ですか?」
「あぁ、頼む」
「それではご確認しますので、少々お待ち下さい」

父親の暮らす街はザンザスの暮らしている村からかなり距離がある。かならず届くように住所確認や切手に不備がないか、届かなかった場合の証明書を役場は用意しなければならないのだ。
書類に必要事項を記入する京子に座っているよう促され、ザンザスは近くに置いてあるソファに座る。開け放たれた窓から入る風が心地よい。ザンザスは外の景色をぼんやりと眺めていたが、窓枠の下から突然現れたビアンキに驚き、盛大にその艶やかな尻尾の毛を逆立てた。

「そんなに驚かなくたっていいじゃない」
「…絶対狙ってやっただろ」
「何回やっても引っ掛かるあなたがいけないのよ」

ザンザスが不満そうに頬を膨らませればビアンキは微笑み、小さな袋をザンザスに手渡す。

「なんだ?」
「クッキー焼いたのよ、あげるわ」
「これが、クッキー…」

ザンザスは渡された袋をまじまじと見詰めた。別にクッキーを初めて見たとかそういう訳ではない。どうやったらクッキーが固形物ではなくペースト状になるのか真剣に考えていたのだ。

「私は喫茶店に行くから、またね」
「あ、あぁ」

颯爽と去っていくビアンキ、クッキーを配って満足したかのように揺れる尻尾を見送り、ザンザスはとりあえずクッキーはカスに食わせようと考えた。
そんな時。

「ふ、にゃ!」

ぎゅっと握られた尻尾に驚いて、ザンザスは涙目で振り返る。そこに立っていたのは全身黒のスーツで統一した真っ黒な毛並みの狼。

「ちゃおっス」
「尻尾!」
「あんまり可愛く動かすのが悪ぃんだぞ」

この村で村長をしているのが黒狼のリボーン。なぜかリボーン以外に村長へ立候補する獣人がいないため、長年村長をやっている。

「なんだ、今日はスクアーロは仕事なのか?」
「朝から作業場に籠ってやがる」
「好都合だな。ザンザス、俺が遊んでやるぞ?」
「ひ…っ」

さわ、と尻尾の付け根をいやらしく撫でられザンザスは慌てて体を引いた。
会うたびにリボーンはこうしてザンザスへセクハラをする。リボーンからすればスキンシップのひとつ、あわよくば美しい黒猫の味見がしてみたいがザンザスの警戒心は強い。

「触るな!バカ、ドカス!あっち行け!」
「役場は俺の仕事場だぞ?」
「だったら仕事しろ!」

ザンザスはリボーンを警戒しながら京子のいる窓口へ駆け寄った。京子はそんな二人のやり取りをスキンシップと勘違いしているようで、緊張感のない笑顔を見せた。

「お待たせしました、今出来ましたよ」
「ザンザス、茶ぐらい飲んでけ。俺が直々に淹れてやるぞ?」
「帰る!京子ありがとうな」
「ふふ、ご利用ありがとうございました」

ザンザスは役場を後にすると来たときの倍に近いスピードで家まで帰った。
早く帰ってスクアーロにリボーンが触った尻尾の手入れをさせて、クッキーを食べさせてみなければ。

その日の夜、クッキーを食べてスクアーロが倒れるのはまた別の話。



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