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線路を駆け抜けC

列車の運転手、レヴィは重いため息をひとつ零した。
手には工具を持っており、激しい速度上昇に伴う振動で分散してしまった焔、正確には焔の入っていた大型のガラス容器を見ていた。
予備の焔すら、分散して無くなってしまった。
落石を目視した瞬間、ブレーキを踏んでは間に合わないと判断してアクセルを目一杯捻った。
衝突を避けられたが、ここから救助を呼びにいくにも命懸けだ。
落石の影響で、他の場所も落石の危険がある。
苦々しい舌打ちをして、圧力の高まってしまったボルトを緩めていく。

「おい」
「…?あの、お客様…?」
「焔はどの容器に入れるんだ」
「お客様っ、ここからは車掌と運転手のみの立ち入りしか…っ」
「お前がレヴィか?」
「はぁ…、あの、お客様は」
「俺はザンザスだ。焔が出せる」
「…、それは…本当ですか!?」

突然燃料室に現れた黒猫はザンザスだと名乗った。
レヴィは制止しようとしたが、焔という言葉に制止のために上げた腕を下ろす。
まさか、こんな奇跡があるのだろうか。
数少ない焔を生み出せる獣人が、今目の前にいる。

「この容器か?」
「そうです。あ、…でも」
「…どうした?」

レヴィたちが勤めている私鉄会社は小さな会社だ。
切り詰めて切り詰めて、それでやっと中央街と町や村を繋ぐ私鉄を走らせることが出来ている。
焔の相場は、擬似焔よりも高い。
もし焔をザンザスから貰ったとしても、金を払うことが出来ない。

「……っ、」
「なにを考えてるか知らねぇが、焔が無ければ被害は広がるぞ」
「はい…。でも、焔を買うだけの金を用意することは…」
「この私鉄が止まれば、ターラントの流通は混乱するだろうな。そっちのほうが大損害だ」
「その通りです…、ですが…」
「…ルッスが言ってた通りだ。お前は融通が利かない運転手だな」

ザンザスが屈託なく笑う。
レヴィは強く唇を噛み締めた。

「そうだな…じゃあ相応の物を貰おう」
「……はい」
「まずベッドが狭い。備え付けのソファも座り心地が悪い。シャワー室ももう少しデカくしろ。あと車内販売で温かい飲み物がないのは論外だな」
「は……?」

レヴィは驚いて顔を上げた。
ザンザスはレヴィを無視して改善点を挙げ続ける。

「あ、あの…」
「まぁこんなもんだろ、覚えたか?」
「いっ、あっ、メモらせて下さい!」
「そんなに焦るな、あとでまた言ってやる。改善の期限は無期限だ」
「それでは…!」

ザンザスは笑う、その手のひらには球状の眩い焔。

「うるせぇ、拒否権はねぇんだよ。お前は消費者、俺が生産者、取り引き成立だ」

みるみる容器に溜まっていく焔を、レヴィはただ見つめるしか出来なかった。
まさか焔をこんな形で得られるだなんて。
ザンザスの挙げた改善点を死んでも直してみせるとレヴィは誓った。



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