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小説‐ガールフレンド(仮)
部長と恋人
 聖櫻学園の1日の授業が終わり、俺、伊藤海夜はある教室に入った。

「あら、海夜くん。遅かったわね?」

 教室に入ると同時に声をかけられた。ロングの紫っぽい髪で、万年筆とメモ帳を持っている女性だ。

「すいません、部長。ホームルームが長引きました」

「そう?」

 ここは新聞部の部室であり、彼女は3年の部長、神楽坂砂夜だ。

「何か面白いネタでもあったのかしら?」

「ありませんよ。普通のホームルームですって」

「ふふ。そう?」

 何が面白いのかは知らないが、部長は笑う。
 俺は元々帰宅部だったが、何故新聞部に所属しているのかというと、ちょっとした経緯がある訳なんだが‥‥。

〜〜〜回想〜〜〜

 とある日の午後だった。今日も何事もなく1日の授業を終え、帰宅するつもりだった。

「失礼。少しよろしいかしら?」

「はい?」

 何事もなく帰宅するつもりが、ふと声をかけられた。その相手が、神楽坂砂夜先輩だった。

「初めまして。3年の神楽坂砂夜です。2年の伊藤海夜さん、で間違いないかしら?」

「間違いないですけど‥‥何か?」

「帰宅部よね?」

「そうですよ」

「少し時間よろしいかしら?」

「俺に取材ですか?取材することなんてないと思いますけど」

「いえ、実は、偶然あなたが書いた文章を読ませてもらってね。個人的に、凄くいい文章だったと思うわ」

 俺が書いた文章を読んだ?何の文章だ?

「どうかしら?あなたなら面白い記事が書けると思うわ。新聞部に入ってみない?」

「はぁ‥‥」

〜〜〜回想終了〜〜〜

 とまあ、半ば強引に押し切られる形で新聞部に入った。

「どうしたの?」

「‥‥いえ。何でもありませんよ」

 俺は机で記事を書き始める。

「あなたはネタを探しに行ったりはしないのね?」

「今書いてる記事は十分ネタがあるので。部長はどうなんです?」

「私?今回の記事はあなたたちに一任してるから、今は記事を書いていないのよ」

「そうですか。まあ、いいですけど」

「ええ。だから私はいいのよ。ちゃんと書けてる?」

「書いてますから。大丈夫ですよ」

「そう」

 会話はそこで終わった。部長は本でも読んでいるらしく、俺は記事に視線を落とした。

〜〜〜〜〜

「ふぅん。随分真剣に書いていたようね」

 部長が俺の机を覗き込んでいた。

「‥‥どうかしましたか?」

「そろそろ下校時間よ」

 もうそんな時間か‥‥。

「帰りますか」

 書きかけの記事を鞄にしまい、その鞄を肩に引っかけた。

「鍵を返してくるわ」

「はい」

 俺は昇降口で上靴を履き替え、ぼんやりと外を眺めていた。

「お待たせ。帰りましょうか」

 部長が昇降口にきた。部長も上靴を履き替え、俺の隣に並んできた。二人揃って昇降口を出た。

「記事はどう?」

「どうですかねぇ‥‥もう少し練らないといけませんかね」

「そう?楽しみにしているわ」

 楽しみにすることでもないと思うけどな。

「もう冬ねぇ‥‥」

「息白いですもんね。部長、寒く」

 言いかけて部長に手で口を塞がれた。

「部長って、誰のことかしら?」

「‥‥はいはい、そうでしたね、砂夜さん」

「相変わらず素直じゃないわねぇ。砂夜でいいのに」

「神楽坂先輩でも」

「暫く飲み物なしかしら」

「冗談じゃないですか」

「可愛気のない冗談は嫌いよ」

「冗談はよく言うじゃないですか」

「私が言う分はいいのよ」

 だろうな‥‥。

「わかってますよ、砂夜さん」

「さんは消えないのね‥‥まあいいわ。それで、何かしら?」

「ああ、寒くないですか?」

「寒いと言ったら、何かあるのかしら?」

「学園の帰りです。何もないですよ」

「‥‥それもそうね」

 学園に必要なもの以外持ってなくて当然だろ。
 そんな他愛もないやり取りを続けていると、目的のマンションが見えてきた。2階に上がり、ある一室に入る。

「今日は何がいい?」

「コーヒーで」

 砂夜さんが2つ揃いのマグカップを持ってきた。その1つを受け取る。

「どうも」

「ゆっくりしていって。ご飯はどう?」

「今日はいいです。それとも、寂しいですか?」

「それは言わないの。本当に寂しい時は言うわ」

「そうでしたね。今のは俺の失言でした」

「でも‥‥あなたがいてくれないと‥‥私‥‥」

 砂夜さんが俺との距離を詰めてきた。

「ちょっ‥‥砂夜さん、近いですって」

「私‥‥!」

「ちょっ!」

 砂夜さんが俺の肩を掴む。俺は強引に引き離そうとした。

「冗談よ?」

 砂夜さんは俺の肩を掴んだところでピタッと止まる。俺は深々と息を吐き出した。

「ハァ〜‥‥勘弁してくださいよ」

「失言の罰よ。いっそ大胆に迫ってもよかったけど」

「勘弁してくださいって‥‥」

 ただでさえこの人は美人で、高校生には見えないんだから‥‥。

「あら?残念だった?」

「帰りますよ?」

「冗談じゃない」

 ふふ、と笑みを溢して砂夜さんは元の位置に戻った。俺は落ち着く為にコーヒーを飲む。

「取り乱さないの。私のお相手なんだから」

 砂夜さんの相手だから取り乱すんだろ。しかも自分でわかっててからかってくるし。
 コーヒーを飲みながら談笑していたが、コーヒーがなくなった。

「さて、そろそろ帰るかしら?」

「そうですね。おいとましますか」

「そう。なら、連絡しましょうか。近々天体観測があるから、私と一緒に取材に行ける?」

「いいですよ」

「そう。なら、私のお相手ね」

 いつもだけどな。

「日付は確定で決まってますか?」

「そうねぇ‥‥私はまだ聞いてないわ。聞いたら知らせるでいいかしら?」

「わかりました。日程は合わせます。取材が目的ですか?」

「半分ね」

「半分?どういうことです?」

「あと半分は天体観測を楽しむ気でいるということよ」

 ああ、なるほど。俺としてはどっちでもいいが。

「いいですよ。付き合います」

「素直でよろしい。詳細は追って連絡するわ」

「わかりました」

 俺は立ち上がり、マンションの出口に向かう。

「じゃあ、失礼します」

「ええ。良い記事を書くのよ?」

「まあ、がんばります。では」

「おやすみなさい」

 マンションから出て自宅に向かう。まあ、調子を狂わされる相手ではあるけど、嫌いにはなれない。それが俺の恋人、神楽坂砂夜だった。

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