小説‐ガールフレンド(仮) 新春 元日。朝起きて親に新年の挨拶をし、準備して行き先を告げて家を出た。 一応言っておくと、寝坊はしてない。フミとの待ち合わせの時間には余裕で間に合う。 フミの家の前に到着し、電話をかける。何度かのコールの後、電話に対応された。 「あ、フミ?」 『はい。家の前ですか?』 「うん」 『すぐ行きます』 電話は切れ、すぐに玄関が開いた。水色の振袖を着た女性が出てきた。 「‥‥‥‥」 「明けましておめでとうございます。‥‥あれ?あの、康平くん?」 「‥‥ん、ああ。明けましておめでとう、フミ」 見とれてた‥‥見惚れてた‥‥新春を迎えた振袖の姿で、花柄で水色の振袖。髪はいつもの密編みではなく、長い髪を花のピンで上に留めて纏めている。ほんの少し、薄く化粧をしている。 「あの、康平くん?」 「ああ、大丈夫だよ。何でもないから」 「本当ですか?ぼ〜っとしてませんでしたか?」 「大丈夫。さ、行こ」 「あ、ちょっと待ってください」 誤魔化そうとして歩き始めようとすると、フミに呼び止められた。フミは玄関前であんまり動いていなかった。 「ああ、歩きにくい?」 「はい。慣れないもので‥‥それに、初詣の神社は人も多いから、手を‥‥」 遠慮がちに手を差し出すフミ。俺はフミに近寄り、手を取った。 「オッケー。じゃ、行く?」 「はい。行きましょう」 二人揃って歩き始める。下駄の音が歩く度に鳴る。その音が少しだけ心地いい。 「すいません。遅くて」 俺とフミの歩く速さは普段からゆっくりだと思う。それでも今日は振袖姿のフミの速さに合わせて歩いてるから、普段より更に遅くはある。 「いいよ。気にしないで。新年から綺麗なフミが見れたし」 「‥‥見惚れてました?」 「‥‥見惚れてました」 素直に頷くと、フミは小さく笑った。 「ありがとうございます。嬉しいです」 本当に見惚れたから仕方ない。それだけ綺麗だから。 「ふふ‥‥今年も楽しそうです」 「‥‥だね」 フミが楽しそうで何よりだよ。 神社が見えてきた。人が列を作って並んでいる。 「初詣に来てる人はやっぱり多いなぁ‥‥」 「はい。毎年このくらいは‥‥」 ガヤガヤと新年を楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。 「大丈夫?」 「はい。康平くんが手を繋いでくれていますので安心です」 「まあ、全然進まないけどね」 「そうですね。それもこれだけ人が多いと仕方ないと思いますが」 とは言っても、普段通りゆったりとした時間だった。いつもと違うのは周囲に人が多いのと、周囲が賑やかなことかな。 「そういえば、新年からも学園のイベントはあるんだよね?」 「あるでしょうね。相変わらず賑やかに」 学園のイベントは延々と続いてる。何かしらのイベントが学園のどこかで、誰かが何かをしているのが聖櫻学園だと思ってる。 フミと普段通りの会話を楽しんでいると、神社の賽銭箱が見えてきた。小銭を用意して賽銭を投げ入れる。手を合わせ、今年の1年をお祈りする。俺が祈り終わって眼を開くと、フミはまだ眼を閉じていた。けどフミはすぐに眼を開けた。 「済みましたか?」 「うん。行こうか」 また手を繋いで歩き出し、長蛇の列から抜け出す。 「何をお願いしたんですか?」 「今年1年、良い年になりますようにって」 「私もです」 フミとこうしてまったりとした時間を過ごせればいいんだけどね。 「おみくじ引きますか?」 「大凶はある意味強運らしいね?」 「嫌ですよ‥‥大吉がいいです」 「引く?」 「あれ?引きませんか?」 「俺はあんまり興味ないんだよね」 「もぉ‥‥」 「フミといれたらそれだけで大吉じゃない?」 「もぉ。からかわないでください」 フミの綺麗な振袖姿を見れたんだよ?それだけで幸運の大吉だよ。 「‥‥じゃあ、試しに引いてみてください」 「ん〜、まあいいけど」 ということで、おみくじを引いた。引いたくじを開く。 「おっ‥‥」 頭文字が見えた。最初の文字は、大。 「あら‥‥」 「ほらね。フミ」 「むぅ‥‥なんだか悔しいです」 「あはは。帰ろうか」 「はい。そうですね」 俺とフミは初詣で賑わう神社から離れた。今年1年、良い年になるだろうと思いながら。それにしても、大凶じゃなくて良かったなぁ‥‥。 [*前へ] |