小説‐ガールフレンド(仮)
冬の予定
空が白んできた今日この頃。吐き出す息が白くなり、冷たい空気で凍える日々。季節は冬。その冬の一大イベントが近付いていた。
俺は暖房の効いた図書館に入った。もう図書館に来ることが日課になっている。カウンターで本を読んでいる俺の恋人がいるのも、いつも通りだ。
ただ今日は、いつもとは違ってすぐにカウンターに近寄った。いつもなら図書館の閉館時間に合わせて話しかけるけど、すぐに話しておきたいことがあった。
いつものようにカウンターで本を読んでいるフミに、俺はそろりそろりと近寄った。カウンターの後ろ、つまりフミの後ろから肩を掴んで声をかけた。
「フミ」
「わあっ!」
ビクッとフミが飛び上がる。フミが振り返ってムッとした表情で俺の姿を捉えた。俺は思わず両手を挙げた。
「‥‥ごめん。そんなに驚くとは思ってなくて」
「もぉ!本を読んでたじゃないですか!」
「ごめんごめん」
ムスッと少しだけむくれているフミ。怒ってるんだろうけど、可愛いな。
「もぉ‥‥どうしたんですか?」
「いや。話しておきたいことがあってさ」
「話しておきたいこと‥‥?」
怒った表情は消え、キョトンと首を傾げる。
「もうすぐクリスマスだよね?」
「はい。そう‥‥」
フミの言葉が続かなかった。今度は眼を細めてじ〜っと俺を見ていた。
「な、なに?」
「‥‥学園のイベントですか?」
「イベント?ああ、聖夜祭だっけ?」
クリスマスに行われる予定のイベント、聖夜祭。参加者がサンタの衣装で‥‥みたいな感じのイベント。
「フミが参加するっていうなら参加するけど」
「しません」
即答だった。
「フミのサンタ衣装、可愛いと思うけど」
「嫌です。康平くんのお願いでも聞いてあげません」
珍しく頑なだ。まあ、フミが嫌がってるのに、無理に参加させることもない。
「そっか。じゃあ今回の参加はなしと。
いや、俺の話はそうじゃなくてね。クリスマスには関連してるんだけど」
「はい?」
「クリスマスの日、二人でイルミネーション見に行かない?」
「あ、ああ‥‥ごめんなさい、勘違いを」
「ううん。それはいいんだけど。で、どうかな?」
「いいですよ。一緒に行きましょう」
お、上手く誘えたね。よかった。
「プレゼントも用意しとくから」
「はい。私も」
フミがやっと笑ってくれた。最初は俺が悪かったとはいえ、クリスマス関連でいい顔してなかったからなぁ。学園の聖夜祭が嫌なだけみたいだけど。
「‥‥」
「フミ?」
フミがまたじ〜っと俺を見ていた。今度は何だろ?
「‥‥康平くんは、サンタ衣装好きですか?」
「えっ?何で?」
「いえ‥‥私の友人の望月さんが、サンタ衣装は可愛いから是非‥‥と」
「でも、フミは嫌なんでしょ?」
「だって‥‥恥ずかしいじゃないですか」
ついと顔を逸らすフミ。いや、うん。見てみたいとは思うけど。
「無理に着なくていいよ。フミはフミらしく、ね?」
「‥‥そうですね。でも、サンタ衣装を着た女の子を見てでれでれしないでくださいね」
「‥‥気を付けます」
フミはクスッと小さく笑った。
「じゃあ、またあとで」
俺は図書館のいつもの椅子に座り、本を読み始めた。
〜〜〜〜〜
図書館の閉館時間が過ぎ、俺とフミは一緒に帰っていた。
「さむ‥‥」
暖房の効いた図書館から外に出ると余計寒く感じる。
「もう冬ですからね。それに、今年も終わります」
「そうだね‥‥大晦日と正月の予定は?」
「特にないですけど‥‥でも、毎年元日に初詣に行きますね。良い1年になりますようにと」
「そっか」
「康平くんは何かありますか?」
「俺も特には。毎年家でごろごろしてるだけだからね」
「それなら、一緒に行きませんか?新春のお寺参り」
「うん。行く行く」
年が明けてもフミと一緒にいられそうだ。
「大晦日は‥‥」
「何か案でもある?」
「‥‥そうですね。大晦日は、康平くんの家で静かにしていたいです」
‥‥マジで?
「‥‥フミの家じゃダメなの?」
「私の家だと、ご近所で集まって酒盛りを始めてしまうので、とても静かには‥‥」
「‥‥なら、仕方ない‥‥のか?」
「はい。年が明ける前に帰れば、なんとか」
ああ、なるほどね。家に泊まるとか変なこと考えてたよ。
「じゃあ、大晦日と元日はそうしようか」
「はい」
今後の予定は決まり、もうすぐクリスマス。クリスマスが終われば、すぐ年が明ける。1年もあっという間だなぁ‥‥。
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