あまい花

 学食とはかくも敷居の高いものだったか。
 俺は逃げ出しそうになる自分の足を叱咤激励しまくりながら、扉をくぐった。ちらりちらりとその辺を見渡す。入り口側を向いて座っていたイケメンコースケは、あっさりと見つかった。今日もめちゃくちゃ人が多い学食だが、こういう時にコースケや小山田は便利だ。ほら、なんてーの、オーラ的なものがあるから……華やかな人らって人生得してるわ。
 俺はカウンターへ行くのは後回しにして、コースケの方に近寄った。あ……あの後ろ姿は……。

「お〜、マサ。遅かったネ」
「おう、待たせたか。そんなに俺に会いたかったか」

 ああ、いかん。緊張のあまりおかしなことを口走ってる気がするぞ。
 そんな俺たちの会話に、見慣れた後ろ姿が、振り返った。

「マチ」
「……! おう。元気か」
「はは、なにキョドってんだ」

 挙動不審気味な俺に、今日も素晴らしくカッコいい小山田が破顔した。つーか。こいつ。勘弁して欲しいくらい、こう、雰囲気が……やらかいっつーかなんつーか!
 小山田の隣、コースケの向かいというなんとも微妙な席に腰を下ろす。本当はコースケの隣に行きたかったのだが、アイツ、荷物をおいてやがった。本当に使えない駄目な奴だぜ……。
 あーしかし、やっぱ余裕があるなぁ小山田は。俺なんかこんな些細な会話ひとつでもドギマギしちまうってのに。

「あれ、まだ何も食ってねーのか」
「真知くんを待ってたんだよ僕ら。いい友達だろ。ありがたがれよ」
「わあ、すっげ嬉しい」
「もうちょっと感情こめてくれよね」

 はぁ、コースケと馬鹿話すんのは和むぜ。なんか、こんなに緊張してた自分が馬鹿みたいだ。
 いい感じに気が抜けたところで、隣の小山田をちらりと横目で見遣る。小山田は、にこやかに爽やかに微笑みながら俺を見ていた。まるで菩薩だ……と俺は思った。


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あきゅろす。
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