前に向き直った俺は、ずっと小山田の走り書きを見ていた。頭の中ははてなマークでいっぱいだ。
だってなんで小山田が俺に電話番号とアドレスを教える必要があるんだろう。それを聞きたいけど如何せん講義中、もう一度振り返ってそれを聞くのは躊躇われた。
「……」
友達になってくれるとでも言うんだろうか。もしくは知り合った人全員に教える主義とか。そうじゃなきゃ、意味がわからなすぎる。
だって、ただ落書きを見せただけの俺に個人情報を教える理由はそれぐらいしか考えられない。
前者だったらいいなぁ、と、思う。だって小山田は有名人で、そんな小山田と仲良く出来るなら俺だって嬉しい。
あ、そうだ。俺も小山田に、番号を渡すべき、だよ、な? うーん……俺、調子乗ってないよな?
うん、これは最低限の礼儀ってヤツだよな。うんそうだ。
鞄からこっそり携帯を取り出して、机の下で開く。小山田を登録して、さっそく、メールを打った。
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よろしく。
080-XXXX-XXXX
大井真知
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よし、これでバッチリ。そーしん。
数秒遅れて、後ろから小さくバイブ音が聞こえた。それから、カチカチと携帯を操作する音。今度は手に握ったままの、俺の携帯が震える。
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大井町ってからかわれない?
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よく言われるよ。
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やっぱな。あだ名、何?
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あだ名か。おーちゃんか、まっちゃんか、マサだな。
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じゃあ俺は、マチって呼ぼう
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嫌がらせかよ。そう思ったけど、なんだかこんな普通のやりとりが嬉しくて、俺は後ろの小山田に見えるように、指でオッケーマークを作った。
それが小山田エイジとのはじまり、だった。