冗談だろ、と笑い飛ばすこともできないくらいの真剣さくらい、俺にだって感じ取れた。
それでも、俺は何も言葉が出せなかった。ただただアホみたいに口を開けっ放したまま小山田を見上げ続けることしかできなかったのだ。
「……」
「あの……何か言って?」
「あ? あー……えーと、えー……あのー……つまり……?」
つまり、小山田は俺が好きで……運命の恋の相手が、俺……だと?
「まさかの!」
無意識に叫んで、立ち上がっていた。だってしょうがなくないか、この完璧を絵に描いたような男が、何をトチ狂ったのか俺を好きだとか!言いやがるんだぞ!
激しい混乱の中で、座ったままの小山田を見下ろす。小山田は真摯さの固まりみたいな目で俺を見ていた。その目に、余計混乱する。
「えー、え、お前何言っちゃってんの!」
「ちょ、マチ、落ち着いてよ」
「落ち着いてられっか! ちょ、本気なら考え直せ!」
「どうして。マチ、迷惑なの?」
迷惑とかそういう問題じゃないと思う!全然違うと思う!
小山田が凄すぎて俺では釣り合わなさすぎるとかいう問題でもない。もっと根本的な部分……そもそも僕も君も男の子じゃないか!!
「俺はマチが好きだ、だから、付き合って欲しい」
「わぁもう!!」
俺は激しい混乱から抜け出せないままでいるというのに、小山田は更なる追い打ちをかけてくる。
あわあわと落ち着かない俺の右の手首を、小山田がぎゅっと握った。
「ちゃんと、考えてみて。俺は覚悟、決めてるから」
覚悟。覚悟って、なんの覚悟だ。
手首を握る小山田の手のひらが熱い。そして俺を見つめる視線は柔らかい。
そうだ……さっきも感じたことだが、この視線は……柔らかいって言うよりはむしろ、やっぱり。
あまい、って言うんじゃないだろうか。
「わ、わかった。わかった、考える。ちゃんと、考えるから。手を……放してくれよ」
その言葉が浮かんだ瞬間、身体中の血が沸騰してしまったんじゃないかってくらいに、顔が熱くなる。
小山田の手はゆっくりと離れていったのに、何となく感触が残ってるような気がして、俺は握られたた手首を自分の左手で押さえた。
小山田はそんな俺を見ながらふっと笑って「ごはんはまた今度にしようか」と言った。
「あ、ああ……」
「……ごめんね、マチ」
「え?」
「困らせるだろうなぁとは思ったんだけど。俺、結構せっかちで狭量だったみたい」
「……」
「もっと好きになってもらってから言うんだったかな」
小山田は微笑んだままそう言って、帰るね、と踵を返してしまった。返事も出来ずにその後ろ姿を見送りながら、どうしよう、という言葉が自然と溢れ落ちる。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
今はもう、それ以上のことは考えられそうになかった。