あまい花

 はにかむ小山田をとりあえず無視しつつ、オレはコースケの隣にそっと移動してこそこそと作戦会議をすることにした。

「ど、どうしたらいいの! どんな反応したらいいのよコースケさん!」
「いやぁ、今時にしちゃ珍しく、ピュワワな奴だな。つーか……信じられんが、もしかして童貞?」
「いやまさか! いや……どう、か、な?えええ、あの顔で童貞とか、女子が聞いたら跨がられるだろ!」
「あーでもほら、セフレとか。あるかも」
「せ、せふれか。ディープな大人の世界はオレから遠い話だぜ……と、とりあえず、聞いてみる? つーか聞いていいと思う?」
「いいんじゃね……いや、微妙? こういうのはナイーブな問題だし」
「うん、本気でチェリーボーイだったら傷つけちゃうかもしれんしな。傷つけちゃいけねーよな」
「つーことで、童貞如何はスルー?」
「そうしようか」
「よし了解」

 作戦会議を終了したオレはそっと小山田の隣の席に戻って、にこっと笑った。笑顔がちょっと引きつったのはご愛嬌だ。コースケも生暖かく微笑している。

「そっかー、小山田はロマンチストなんだなぁ!」
「あー、それ、地元のダチにもよく言われた」
「……だろうねぇ」

 しかしあれだ、オレですら高二の夏に童貞は卒業したというのに……ちなみにその彼女には半年後に『うちらそろそろ受験生じゃん?』というわかるようなわからないような理由で振られたのだが。小山田曰くの運命の恋では、まぁ、なかったんだろうな。オレもちょっとはへこんだが三日で回復したし。そんなもんだ。
 その後もロマンチスト小山田のロマンチックな運命の恋への憧れを聞き(初めての恋人と結婚したいのだそうだ。凄すぎる!)、オレとコースケはさらに生暖かい笑顔でうんうんと相槌をうってあげた。小山田はちょっと残念な子なのかもしれない。なんつーか宝の持ち腐れ的な……もっとその顔と頭と財力を活かして欲しいよな……。小山田はそんな俺達にかまわず、話を続ける。

「うちの母さんの占いがよく当たるんだけどさ」
「え? なに? 何の話?」
「うちの母さん占い師なんだ」

「へ、へぇ……」とオレ。
「え、江原さん系?」とコースケ。
「いや、普通に手相見るんだよ。でも本当すげぇの。政治家のおっさんとかも顧客でさ」と真顔の小山田。

 小山田……なんて摩訶不思議で意外性あふれる男なんだ……。もしかして実家が金持ちって、小山田・母の占いで築いた財なのか……。
 それからしばらく話が逸れて小山田・母の占い談義を聞いてたんだが、コースケは途中で三限目の授業に向かうと言って名残惜しげに退席した。オレと小山田は三限はフリーだったので、学食近くの木陰のベンチに移動して話を続けることにした。なんせ友達になりたてだから、話題は尽きない。というか小山田・母の話が面白すぎてだな……。
 小山田・母が某エセ占い師に「あんた死ぬわよ」と言われて壷を勧められた話に大爆笑した後、オレは軌道修正を試みた。例の運命の恋について、詳しく聞いてみたくなったのだ。

「中一だったかな。母さんがオレの手相見ながら、エイジはいつか運命の恋に落ちるよって言ったんだよ。オレもその時は笑ってたんだけど、三日後くらいに同級生の結構気に入ってたちょう可愛い子に告られちゃって。普通にオッケーしようとした時、ふと母さんの言った運命の恋のこと思い出してさ。これがそうなのかなぁと思ったんだけど、なんつーか、キュンともしないわけ。嬉しいのに、心臓が震えないわけ。そんなの、面白くないだろ? オレはそこで悟ったわけですよ。別に運命の恋の相手でもない女に、可愛いだの愛してるだの言っても、しょうがねぇなぁと。オレは、本当に一生を捧げる覚悟でしか、人を愛したくない」
「一生を捧げる覚悟……?」
「そう。かっこいいじゃん、そういうの」

 そう言って笑った小山田の、どこか恥ずかしそうな笑顔があまりにも綺麗で。
 そんな気持ちをぶつけられながらこの男に愛される女は、とても幸せだろうなと思った。心の底から、そう思った。

3:お宅訪問

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あきゅろす。
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