2 確かに一部を除けば、ガルデの言った事は事実だ。 しかし、俺の感情は全く違う。 突如、よく分からない世界に連れてこられ、何も理解していない状態で男が男に犯されたのだ。 そこでその相手に愛情が芽生える奴がいるなら、そいつは変態だ。 全く気が知れない。 確かに、あいつはガルデの言うように誰もが認める男前だ。 フェロモン垂れ流しのイケメンだ。 だがな、同じ童貞・平凡男子なら分かってくれるだろうが、俺はイケメン滅べ主義だ。 しかも、男なら一生経験する必要のない、ケツを男に掘られるという屈辱的行為をあいつから受けたのだ。 しかも、俺は今まで彼女すらできた事のない童貞だ。 将来はそこそこ可愛くて家庭的な子と結婚して、平凡だけど幸せな家庭を持つという俺の淡い夢が儚くも散っていった瞬間の絶望感といったら。 思い出しただけで涙が滲んできた。 何が悲しくて脱童貞の前に処女喪失をしないといけないのだ。 「くっそぉー!誰があんな奴、イケメンなら何してもいいのかぁあああああ。」 目の前に広がる雄大な自然に向かって叫んだ後、俺は膝に顔を埋めるとぼそりと呟いた。 「あんな奴、大嫌いだ。」 何気なく下に落とした目線には忌々しくも脹れた腹が映り自然と舌打ちしていた。 何にも知らない俺を犯した挙げ句、ヒモロギとかいう特殊な樹液で俺の身体をも変えてしまったアイツ。 母親の三段腹とは違う、張った腹は日に日に大きくなっていく。 最初は大量に中出しされた奴の精液のせいだと思っていた。 しかし、日を追う毎に腹の張りは酷くなる一方だ。 こっちの医者に当たる獣人が来た時も、ご懐妊ですよと、満面の笑みでアイツに告げたジジイに俺は殺意を覚えた程だ。 その後のアイツはあの馬鹿力で俺を容易く抱き上げたかと思えば、嬉しそうに微笑みながら無理矢理また事に及んできた。 だが、死刑宣告も同じ事を聞かされ、屈辱的行為を受けて今の俺はズタボロだ。 俺が絶望に暮れていると、ガルデがそっと肩に触れてきた。 ゆっくりと顔を起こすと、さっきまでとは打って変わって慈愛に充ちた表情をしていた。 「なに泣きそうな顔してるのよ、ハジメ。元気だしなさい。」 慰めようとしてくれているのだろうか。 優しく微笑むガルデに、先程声を荒げた事を謝罪する。 「ふふ。そんな事ハジメは気にしなくていいのよ。」 真っ白い歯を口元から除かせ笑う姿が眩しい。 この変な境遇ですっかり失念していたが、ガルデは相当な美人だ。 健康そうな褐色の肌。豊満な胸と大きめのヒップを毛皮で覆っているだけの露出度の高い服装は目の遣り場に困る程だ。 長い手足とそのボンキュッボンの体型は、海外アーティストのPVで出てくるお姉さんたちと遜色がない。 若干…いや見上げる程の高い身長とくっきりと割れているお腹など筋肉質な事を除けば、俺の周りでは見た事もないほどの目映さだ。 ガルデが相手だったらどんなに良かったか、と口を開こうとしたら、ガルデに先を越された。 「泣くのは獣王様の前だけでしょ。今朝も獣王様の上で激しく腰振りながら気持ちいいって泣き叫んでたじゃない。ハジメって本当にイイ声で泣くわよね。あれ絶対下界の男たちにも筒抜けだったわよ。みんな勃っちゃったんじゃないかしら。ふふふ。」 「…………。」 前言撤回。こいつ本当に嫌だ。少しは空気読め、バカやろう! 俺はそう思いながら別の意味で泣きそうになった。 あの絶倫ヤロウは朝だろうと昼だろうと盛っては、ガルデが居ようと気にせずおっぱじめるのだ。 他人に自分の痴態を見られた。 しかも、男に犯されながらよがってる場面を、だ。 「誰か俺を殺してください。」 恥ずかしさと悔しさと、もう何がなんだか分からない感情に穴があったら誰か埋めてくれと本気で思った。 最近定位置になりつつある膝の上に額を付けて悲嘆していると、頭上から声が降ってきた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |