悲しみを、否定。
幸福を、生贄に。
悲しみを乗り越えても、その先に待っているのはまた悲しみ。そして、更に先にも。
胸をきつく締めつける感情ばかりが溢れていく。
どれだけ涙を流し続ければいいの?
心が溺れていくまで?
息もできず、苦しくなってしまうまで?
深淵に沈み、音を立てて潰れるまで?
――イヤダ。
そんなの嫌だ。
ならば最初から、悲しみなんか乗り越えたくない。
未来に苦難ばかりがあるならば、ここで立ち止まった方がましだ。
先にあるかもしれない幸せを犠牲にするけど。
だけどそれは、あるかどうかわからないもの。あったとしても、乗り越えた悲しみに見合うかわからないもの。
そんな程度のもののせいで悲しむなら、幾らでも捨ててしまう。捨てられる。
だから――
そそり立つ壁に、私は背を向ける。
心をすり減らしてまで、新しい幸福を手に入れたいとは思わないから。
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