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長剣を手にしない、空いた片手で抑えていたのは自身の腹部。その指の間から絶え間なく流れて行く色もまた同系色だった。



街路の大通りから一転、倉庫街の建設途中ビル地下へと闘争の場は移行していた。



ブラッドの疼く腹部の傷は、街路の一角でジェイナが指摘したもの。激しい攻防で更に拡がった傷口が衣服を浸す程、鮮やかな色彩を溢れさせている。


ヴラストの組員の激烈な集中発砲により徐々に削られていく支柱。その裏で罪人の表情には苦痛の色よりも、喜悦の方が勝っていた。

それは戦場を自らの居場所と自負し、闘争を糧とする、血に飢えた戦士の姿だった。


「止めろ」


オルリビアが片手を上げ部下を制す。組員は上司に従順に従い射撃を一時中断させた。


「弾の無駄遣いだ。次に姿を見せた時、顔面にでも叩き込んでやれ」


首肯し、銃器を構え直す。照準は支柱の周囲に合わせられた。数十もの固定された銃身が、白銀の牙を剥く機会を窺っている状態。


オルリビアの最初の思惑では、罪人を生け捕りにする手筈だった。しかし組織ヴラストの本来の目的は、罪人への死刑執行が第一優先。


ならば蜂の巣にし、死亡すればそれで良し。虫の息でしぶとく生存したならば、それを拷問にかけ最大限の苦痛を与えた後、抹殺すればいいだけの話だった。


オルリビアが嘲笑しながら、支柱の裏手に潜むブラッドへと話し掛ける。


「袋の鼠だな。可の有名な血塗れの罪人様もこの程度なのか……正直がっかりだよ」


失望の響きすら含む物言いに、ブラッドは思わず眉間に皺を寄せる。


「勝手に期待してんじゃねぇよ」


小声で呟き、現状況を自身の脳内で瞬時に展開させ把握。


銃弾の猛雨から逃げる為、支柱に身を隠した時。ビル出入り口を固めた組員数名を確認。

そして支柱の背後には、銃器を構えた組員数十名とオルリビア。更には両側から各一名ずつ挟撃の為、遊撃隊がこちらに向かって来ている事も思考に組み込む。


「──さて、どうする?」


自問自答。


自ら所持する唯一の武器は、血塗れの、最近斬れ味がおちてきた長剣一本。

対し、敵方の得物は数千発の音速の凶弾。


手負いであり追い詰めれた絶対絶滅の状態に、ブラッドの口角が挑むよう凶暴に吊り上がる。


「面白れぇ」



無数の弾痕が刻まれた支柱に、オルリビアは侮蔑の眼差しを向けていた。


支柱に潜む罪人に既に勝機はない。


報復の為の組員動員人数は五十六名。内十二名は罪人の専属仲介屋の方へ人手を割いた。それでも四十四名が罪人を囲っている。

組織内の、兵を集結させ構成した成員達。この包囲網に孔はない。

如何にSS級といえども、打破は不可能。

オルリビアは絶対の自信を持っていた。


若造が……調子に乗って我が組織ヴラストに噛み付き過ぎたのが運の付きだったな。


オルリビアが胸ポケットに手を差し入れると同時に、傍らに控えた組員が素早く対応。

取り出した煙草に火を貰い、咥え味わう。


紫煙を立ち昇らせるオルリビアが、次に罪人抱いた感情は嘲りだった。


罪人は無謀にも、裏組織同士の繋がりが深いヴラストを狙ったのだ。

もしヴラストを今回万が一にでも運良く退けたとしても、同盟より別の裏組織の連中がこれからは罪人に報復の的を絞るだろう。


「……死ぬも地獄、生きるも地獄。なら手近なこの場の地獄で死んどけよ、罪人」


まるで同じ煙草でも勧めるかのように気軽く呟いたオルリビア。その瞳は酷く冷めきっていた。














膠着した事態は唐突に動いた。


支柱から突発的に飛び出した物陰を、数百発の弾雨が容赦なく襲う。


金属音と共に、それは更に先にある支柱の裏手へと消えた。同時に短い呻き声が上がる。衝撃の勢いのままに、鳩尾を長剣で貫かれた男が支柱から転がり出る。

それは挟撃の為、罪人に接近していたヴラスト組員の一人だった。


驚愕と動揺が走り、組員達の警戒が一瞬解ける。その隙をつき、自身唯一の武器を投擲していたブラッドは逆方向の支柱へと駆けていた。


駆けながら跳躍し、もう一人の遊撃隊が潜む支柱の裏へと渾身の飛び蹴りを放つ。

先程の銃撃で気を取られ対応に出遅れた遊撃隊の眼前には靴裏。避ける術なく真面に顔面に受け、あえなくその場に無様に転倒した。


「奴はこっちだ! 撃て!」


焦躁じみたオルリビアの叫び。しかし既にブラッドの姿はそこにない。


オルリビアの元へと疾駆するブラッドの両手には遊撃隊の懐から瞬時に奪っていた銃器。双方撃鉄を上げ引き金(トリガー)を強く引き絞る。


二丁拳銃の弾雨の猛攻が無防備なオルリビアと組員を襲う。

苦鳴と血煙の中、オルリビアは咄嗟に部下を盾に取り着弾を避けていた。遅ればせながら、組員達も罪人目掛け狙撃を開始する。


無差別な銃撃戦の中、反撃の弾丸がブラッドの頬を掠めた。次いで弾道が右肩、左腕、脇腹を削ってゆく。

瞬間的に走った痛みを罪人は無視し、前方のみを見据え疾走し続ける。


握り締めた銃は離さない。


眼前の銃撃を続ける組員の額、その横手で控えた組員の右目に無慈悲な鉛弾を的確に届ける。

狙いは正確に命中。脳と眼球それぞれが撃ち抜かれた組員等の真紅な奔流の間を抜け、オルリビアの前に立つ次の組員と肉薄した。


眼前に迫る手練の紅い男に恐怖を覚えながらも、頑健そうな組員は背後の上司を守る為に突進。体重を乗せた重い一撃を繰り出す。




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