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そして実際ブラッドは常に死と隣り合わせの戦線に立ち、傷を負いながら端から見ても無茶な依頼を日毎確実にこなし過ごしている。


要はSS級の傭兵を所望する依頼とは、大概が間違いなく一筋縄ではいかない面倒な用件である訳だ。


……しかし、幾ら悪名が広がっているとはいえ罪人はまだルーキーだ。


その罪人を要望するという事は、罪人に関し余り詳しく知識が無い者。つまり依頼者は、この街の者ではない者である確率が高い。そしてそれは他に手引きする者の存在を明確に浮き上がらせる。


俺の見立てでは、このアイリって子の裏に、多分ギルド内部の関係者が関与している気がするんだけどなぁ……


ジェイナのその推測はほぼ正確だった。

それは次の、無邪気な微笑みと共に答えたアイリの言葉で確信となる。


「はい。実はついさっきまで私と一緒に同行してくれた傭兵さんが教えてくれたんです。その方が────あ! そう、ルナ・アドムっていう女性の傭兵さんとディルガさんは知り合いなんですよね?」


「え…………」


思いもよらない少女の切り返しに、ジェイナの思考は軽く停止した。

彼にとっては、再び耳にしたくなかった名を聞いたような気がしたからだ。


「君……今……なんて…………?」


嘘だ。幻聴だと信じたい。


「だから知り合いなんですよね? ディルガさんはルナさんと。ルナさんが私の同行者をしてくれた傭兵さんなんですよ」


今度はハッキリと聞こえた。最早、幻聴で済ます事などできないくらいに。

途端、ジェイナ顔がみるみる青褪めていった。


「ルナ……って、嘘だろ!? 【狂人】が帰って来たって!?」


自らが今現在追われている立場さえ忘れ、叫んだジェイナ。そのまま無意識に続ける。


「まさか居るの!? この街に!? マジで!! うっわぁー…………はぁ。どうしよ、ヤダなぁ、絶対逢いたくな──」


「?」


「あ、ゴメン。取り乱して……その、ルナの奴は元気? えと、もしかしなくても今ここに来てたりするのかな?」


「はい、元気でしたよ。実はルナさんとは先程別れたばかりなんです。野暮用があるのですぐにこの街を離れると言っていましたけれど」


「そ、そう」

ひとまず再会するような危機は無いと判断。内心胸を撫で下ろすジェイナ、逆にアイリは悲しげにうなだれた。


「私の護衛のせいで余計に忙しくさせたみたいで……なんだか申し訳なかったです」


「え! ……ルナが君の護衛をしたの!?」


しゅんとなるアイリ。一方ジェイナは二度目の驚愕に打たれていた。


「はい、優しいですねルナさんって。報酬は要らないって、旧道を抜けてこの街へ来るまで私を護衛してくれたんですよ。私、本当に困ってたので凄く助かりました」


無垢な少女に相対し、ジェイナの頬は引きつっていた。最早、表面上冷静さを保てない。不可能な事が実際に起こっていたからだ。


あのルナが無償!? しかも、優、しい……有り得ないよ……君、それ。


ジェイナは確かに知っていた。眼前の少女を護衛したであろう人物を。ルナ・アドムという名の女傭兵を。その彼女の人柄・性格を熟知しているからこその驚倒だった。


思わぬ衝撃を受け硬直するジェイナだったが、辛うじて気持ちを整理し持ち直してから話題を最初に戻す。


「君……っと、アイリちゃんだっけ? 俺に依頼の取り次ぎを頼みに来たんだよね?」


「はい」


「それってどんな内容?」


仕事依頼を受けるのにいつまでも地べたに座り込んではいられない。

しかも相手は少女だが、ルナ経由の相手だ。油断は出来ない。


ジェイナは徐に立ち上がり、アイリと正面から向き合う。


薄暗い路地。頭上の空は既に闇の気配が濃い。

その真下で依頼者である少女は真剣な面持ちで、自身より背の高いジェイナを真直ぐに見上げていた。


幼さが残る彼女の表情は心持ち緊張しているようにも見える。


「あの、依頼内容は、私自身の護衛ともう一つ別件で頼みたい事があるんです」


「まぁ、別件の依頼内容は後で聞くとして要は君の身の安全保障だね? ……で、その為の希望傭兵級(ランク)はSS級って訳だ。これは必須?」


即座に首肯するアイリに、ジェイナは微笑む。そしてそのままの笑顔で、さり気なく話の核心を突いた。


「──君さ、何の厄介事に追われてるの?」


アイリの表情が強張る。
少女の反応に構わず、ジェイナは仲介者としての意見を端的に述べてゆく。


「SS級傭兵の護衛が絶対必要って依頼自体、まず本来なら受け付けてないからね。俺も罪人と組んでる以上、あいつに通る必要性の無いヤバい橋は渡らせたくないんだ。ま、政府や貴族の人間ならともかく、君は俺が見る限り一般市民の一人。で、その君がSS級の傭兵でなければ話にならない・護衛にできない相手って……君自身一体何に狙われてるっていうのかな?」


「それが──分らないんです」


「分らない?」


眉根を寄せるジェイナ。瞳を伏せ少女は口ごもる。


「それが護衛との別件依頼なんです」


「どういう事かな」


「私自身を狙う人からの護衛とその人の素性を暴いて欲しい、というのが依頼です」


ジェイナは難しい顔付きで考え込む。


得体の知れない者からの保護とその詮索か。それもSS級の傭兵護衛でなければ渡り合えない相手……また厳しいね、そりゃ。


「う〜んと、具体性がないよね。その……君を狙う連中の目星とか心当たりとかないの?」


「ありません。それに分かりません。何故自分が狙われているのかも──けれど、私」

真摯な翡翠の眼差しを受けて、ジェイナは黙り込んだ。真直ぐで必死な少女の視線が、青年の凪いでいる浅葱の瞳を貫いている。


「……真剣なんだ?」


「ええ」


迷う事なく決断を即答する少女に好ましいものを感じた。だが、依頼内容を思い返すに余り良い状況ではない。


参ったな……何かヤバそうだ。


大体、あの【狂人】のルナが絡んでる時点で既に普通じゃないんだよなぁ。


白金の髪、黄金の瞳を持つ剛毅な女性の姿が一瞬ジェイナの脳裏を過ぎった。

思えば、彼女に関わるとろくな事にならなかった。漠然とした不安は拭えない。


「君さ……一つだけ聞いていい?」


心中の疑念は口にせず更に問いを重ねる。アイリは「何でしょう?」と、小首を傾げた。


「ルナに護衛して貰ったんだろ? 何で彼女に引き続き依頼しなかったの?」


「え?」


「君がSS級の腕を持つ傭兵を望むなら、今この街には血塗れの罪人一人。そしてまだ街を発ってないなら、もう一人だけ居る。誰だか君なら分かるよね」



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