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金髪碧眼の少女の姿を思い出し、知らず知らずに口角を凶暴に吊り上げていた。


「……面白ぇじゃねぇか。殺る前に聞く事が増えたな」


「え?」
「知っているぞ」


カディスが間の抜けた声を出したと同時に、不意に店内には破れ鐘のような声が響いていた。

その声にカディス、思考を途中停止しさせられたケルの視線が向かう。


そこには一人の壮年の男が居た。

カウンターの一番端に座っていた男は二人の視線を受けると、そのこけた頬に皮肉気な微笑を浮かべる。


そんな男をケルは無機的な表情で斜視した。


「……何を知ってるって?」


「だから、アンタらが今話していた子供の事さ。金髪のすげぇ別嬪の女の子だろう? 今どこに居るのか? 誰なのか? ……全部知ってるぜ」


男は手の中のジョッキに残っている麦酒を一気に飲み干すと、ケルへと向き直った。
酔いが回り始めているのか、男の頬が少し紅潮している。


そんな男を胡乱げな眼差しで眺めるカディスとケル。

二人のその視線に気付き、男は困ったように半笑いした。


「おいおい疑っているのか? これだけ空いてるんだ、アンタらの話し声なんて幾らでも聞こえるさ。俺は……まぁ、偶然アンタらの話が聞こえたんだ。そして偶然にもアンタらの探し人を知っていた。ただそれだけの事だ」


まるで鳥の巣のような髪の頭を掻きながら、男は肩を竦めた。


男の空いてるという言葉に過敏に反応し、どこかショックを受けたようなカディス。

その様子を横目に憫笑して、ケルは男へと視線を戻した。


「今まで聞き耳をたてていたのなら……当然、俺が何だか知っているのか?」


射るようなケルの視線を受け、男は不敵にそして何処か嬉しそうに言葉を吐き出した。


「ああ、知っているとも、あんたアレだろ? 今、流行りの……え〜と、何て言ったかな。ほら、あ〜……あの、何だ」


ボサボサの髪をさらに掻き乱し、男は唐突に力強くケルを指差した。


「分かった、モデルだ!」


「……知らないんだろうが」


疲れたように呟くケルを尻目に、男は豪快に笑う。


「いや、何、冗談だって。本当は知ってるんだ、アンタは──あの銀狼だ」


空のジョッキを手にしたまま、男はおもむろにその場に立ち上がった。

そしてそのまま真っ直ぐ歩いて来て、ケルの一つ隣りを空け腰を落とす。


「二ヵ月前に死んだアンタが生きていたって、別に何らおかしくない。むしろ死んだ方が謎だ。一夜にして五千人を狩った──なんて噂の魔物が事故で死にましたじゃ、冗句にもならないだろう。今までアンタに殺られて逝った奴等だって納得しないしな」


「お前は──」


鋭利なケルの視線を苦笑で受け止め、男はジョッキをカディスへと渡した。


「自己紹介が遅れたな、俺の名はターズ。これでも一応プロの情報屋だ。裏世界のな」


ターズと名乗った男は軽く会釈し、にやりと笑った。


そしてケルの方へと改めて向き直り、身を乗り出すようにしてケルを凝視する。

その眺め回すかのような視線に、ケルは思わず不快そうに顔をしかめた。



「何だ?」


「お、失敬。いやぁな、これが本当の銀狼かって思ったらな。アンタ存在自体が幻だから、アンタを名乗る偽者も意外に多いんだよ。まぁ、そういう奴等の辿る末路は大体悲惨なもんだが……自業自得ってやつだ」


「……俺もその偽者かも知れないぞ?」


ケルの揶揄に対し、ターズは鼻で笑った。


「いいや、アンタは多分本物だ。銀狼の外見的特徴、銀髪・銀瞳にピタリと一致するし──何より眼を見れば俺には分かる。その瞳は常人には真似できない。早い話が、殺しをする人間とそうじゃない人間との目付きは違うって事だ」


情報屋とは、情報の売買・情報収集をする事だけが仕事ではない。


真の情報であるかの真贋を見極める能力、そして仕入れた情報の管理・保管・各同業者への伝達作業がある。

そして情報密度の濃い内容。つまり、闇取引や人身売買など、扱う情報が黒ければ黒い程その分、利益は跳ね上がる。

それ故、或る程度自身の命の危険に関わる情報を扱う事の方が必然的に多い。

その情報屋としての人生経験から、ターズは知っていた。


殺す側と殺される側の目色の差異を。


その世界の景色の眺めの違いを。


それは一般人とはあまりにも懸隔された眺めだ。

生かすか、殺すか──必要か不要か、その一点の活殺だけに最初から判断は絞られている。


そしてターズの目前に居る男は、その瞳を持っていた。


「俺の目に狂いがなければ──アンタは本物のはずだ」


「へぇ、そうか。ところでガキの情報だがいくらだ?」


まるで興味がないというようにターズの話を受け流し、ケルは話題を最初に戻した。

ターズは苦笑し、肩を竦めるに止める。


「タダで売ってやるぜ、銀狼との記念すべきお近付きの印だ。アンタの探し人の子どもも、最新情報もな」


「そいつはどうも」


感情の籠らない瞳と笑みで、ケルは応えていた。






「二ヵ月前──丁度俺が死んだ頃から起こり始めた奇怪な事件、か」


情報屋が立ち去ったばかりのバーで、ケルはターズが残していった名刺を無造作に眺めていた。





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あきゅろす。
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