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桜舞う


母親ーー

そこで詠は唇を噛んだ

父親は失脚したがまだ拠り所がある

しかし母親は、全て捨てて逃げたのだ。その相手は高岡、本気でないのはいわずもがなだ

母親の性格からして捨てられたかといっておめおめ帰って来はしまい

誰が一番痛手を負う?

詠の親権は祖父に渡った

家庭も仕事も失った父親はこれ以上追い込みようがないし祖父がそれはさせない筈

「………………狙いは、お祖父さま」

急に閃いた

電車に乗り込み携帯を操作する

義孝は父親の仕事とは別に祖父の家に趣味の能や舞で出入りしていた

「…………………あった」

来週催事に50周年のパーティ

出席者の欄に義孝の名前があった

「……最悪だ」

義孝は父親の付き人としてでなく始めから個人として出席名簿に名を連ねているのだ

詠は携帯を額にあてた

催事で義孝は絶対にアクションを起こすだろう

彼には手駒が沢山ある

例えば、可愛い孫がゲイだったり

あるいは母親のスキャンダル

もしくは祖父の内部事情

電車の掲示板が次の駅を表示する

人波に乗り足早にマンションへ向かう

どうしてとゆう想いが頭の中を錯綜する

そこにもう帰るなんて感覚はないまま詠は脚を進めた


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