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桜舞う



初めて体を繋げたあの日から義孝とそういった雰囲気になることはなかった

始めは詠の体を気遣ってのことかと思っていたがそれもやがて落胆に変わった

大義名文であった勉強はもとより政治・経済も詠にわかりやすく教えてくれ仕事があるにも関わらず詠の面倒を細やかにみてくれる

申し訳なさもあったが詠もそれに甘んじていた

それに義孝にお帰りなさいと声をかけるのはなんだか新婚のようで甘い気持ちになる

いつまでもこんな日々が続けばいい

詠は本気でそう思っていた

しかしそれが儚い夢に終わったのは一件の着信からだった

自宅からかかってきたそれに詠は出る気にならずやっとかけ直したのは大学の講義が終わった帰り道だった

四月にしてはまだ少し肌寒い

夕暮れに染まる駅構内を歩きながらなんとなく通話ボタンを押す

なかなか出ない電話に焦れて切ろうとした時、慌ただしく長年執事として家に仕えている長匡が出た

初老を迎える厳めしい男が慌てるところなぞ詠は見たことがなかった

しきりに電話口で旦那様と奥様がと口やかましく繰り返す

『ニュースを見てられないので!?』

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あきゅろす。
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