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桜舞う


叶わないとしても、好きなのだ

十月が手を引く

今は立っているのも辛いのに

やっとの思いでたどり着いた十月の家は屋敷の中でもかなり離れた距離にある小さいが暖かみのある赤い屋根の家だ

初めて入った十月の部屋は居心地よく適当に座ってと言われたのでローソファーのクッションの上に崩れるように座った

しきりに十月が話しかけてくれていたけれど何も耳に残らない

差し出された少し甘いホットミルクをちびちびと飲みながら視線を上げると十月が横に座った

視線を合わせてはいけないような気がして詠は慌てて俯きマグカップで指先を温めながら水面を眺めた

「………………ありがとう」

もぞもぞと居心地悪く言うと十月は微かに微笑んだような気がした

あまり表情が動かないからかもしれない

髪をふわりと撫でられてますます居心地が悪い

「詠は知らないけど、俺はずっと詠を見てたよ」

真剣な十月の精悍な顔が息のかかる距離まで近付いて詠の唇に触れる

硬そうな十月の印象に反した柔らかな感触は嫌悪感も湧かない変わりに何の感慨も湧かない

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