桜舞う
・
静まりかえった東屋のベンチまでゆっくりと座らされる
まだ頭の芯が真っ赤に燃える炭のようにくすぶっているようだ
十月は後ろから詠を包むようにして座り詠は十月の胸にしがみついて顔を埋めた
今見たものが現実だなんて信じられない
「………今のは何?」
指先が震え少し前まで浮かれきっていた現状を把握してしまうと自分が惨めで情けない
義孝の言う愛なんてまやかしにすぎないと気がついていたのに
ただ悲しい
「………僕、好きなだけ……ただ好きなだけだったのに」
情けなさに涙が溢れた
ぱたぱたと十月のシャツに涙が落ちる
十月の心臓の音が近くに聞こえた
「詠、大丈夫、大丈夫だから」
十月の温かな手が背中をさする
「僕、義孝さんとどうこうなりたい訳じゃなくて、ただ義孝さんが笑って………それだけが幸せで」
「もういいから………俺がいるだろう?………詠」
力強く抱き締められて詠はますます涙が止まらなくなる
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