桜舞う
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桜の花びらが散る
雪みたいに降り積もる花弁に触れて尾上詠(おがみえい)は浅い息を吐いた
桜を見ているとあの人を思い出す
あの日はお祖父さまの会社の50周年記念の祝賀会で今日みたいに桜の花びらが降っていた
はらはらと舞う桜の花びらと能を舞う彼の姿は本当に幻想的で美しかった
まだあの日の彼に囚われている
彼、柳義孝は23で国立大学を首席で卒業してからすぐに代議士だった父の秘書になった
すっきりとした美形の彼が父の側に控える姿はまるでドラマで見る役者のようで、父の田票に女性票を潤わせたのは事実だ
全て過去形なのはやはりそれは過去だからだ
当時の詠は18で親の希望からは程遠い成績の大学しか受からず肩身の狭い思いからあまり家に帰らなかった
そんな中、大人で落ち着いていて物腰の柔らかな義孝に懐いたのは自然なことだった
それも相手がそれを狙っていたのだから
何もかもが子供で無邪気に全身で恋をした
純粋な恋はあれが最初で最後かもしれない
春一番の風が吹き荒れる
詠の1度も染めたことのない黒髪がかき乱されその綺麗な顔が憂いに曇った
花びらが荒れるように舞う
詠の瞳から涙が零れた
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