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桜舞う



「知らないのか?小さい神様だよ。こうやって広い所に大量に花を植える時に一緒に埋めて守ってもらうんだ」

浅く掘った穴に人形を埋めると十月は土を被せて手を合わせていたので詠もそれにならう

昔からおじいちゃん子だった十月のやることはどこか古くさく迷信くさい

でもそこが好きだったりする

のんびりと空を見上げたら鷹が高く舞い上がっていた

「お供えとかじゃなくて一緒に埋めるなんて変わっているね」

手を合わせたまま詠が聞くと十月はじっと小さな神様を埋めた所を眺めていた

その横顔は憂いの表情を浮かべているように見える

「詠、気をつけろって言ったのにまだあの秘書と会ってるんだってな」

十月の声色は強張っていて詠は内心生きた心地がしなかった

まるで義孝への下心を見抜かれているようでびくびくしてしまう

「だって、義孝さんは家族ぐるみの付き合いだもの。避けたりとか………できない」

俯く詠の腕を十月が強引にひいた

驚く間も与えられずに瞠目する詠を十月はその腕の中に引きこんだ

「……と…十月?」

慌てる詠を十月はぎゅうと胸に抱き込む

「お前が心配なんだ。本当に気をつけて欲しいんだ。あいつ、怪しい。子飼いの使用人と何してるか知ってるか?絶対に何か企んでる」

「ちょっ………やめてよ、十月!離して」

十月は逞しい体相応の力で詠を拘束する

「詠は知らないんだろう。あいつ、使用人とヤッてた」

バシィッと鈍い音がする

詠は自分でも気がつかないうちに十月の頬を打っていた

はっと我に返り自分の手を庇うように握る

十月が人のことをこんなに悪し様に言うのは初めてでそれに反射的に激昂した自分にも驚いた

詠の指先は微かに震えていた

「そ、そんなの、個人の自由だろ?それだけで、義孝さんを疑うなんて……」

十月から逃げるように離れると十月は少し寂しそうな顔で微笑んだ

「そうだな、でもこれだけは覚えておいてくれ。俺は詠が心配なんだ」

十月の声は本当に心配そうな色を含んでおり詠は戸惑う

義孝と詠の関係はあまりにも希薄だ

信じたいのにそれに足る関係がない

俯いた視線の先が涙で揺れた



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