桜舞う
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あの日から石は光らない
紫外線ライトをあてていないのだから当然なのだが詠は石の肌を指でなぞった
不安定な気持ちが石に触れていると不思議と緩和されていくようだった
ずっと義孝のことばかり考えてしまう
日が経つにつれて気持ちもどんどん萎んでいき今では詠はあの日が夢だったのかどうかも自信がない
義孝は気持ちをほのめかすような言葉をそれとなく口にしてくれるけれど詠の心には虚しく聞こえた
そんな言葉をもらってどうして信じられないのか
言葉では難しくて言えない
ただ義孝の瞳の中には底冷えするような冷厳な寒さと理性があるのだ
恋する人間の目ではない
悩みながら詠が例の東屋まで歩いていると白い花畑に十月がいた
花の手入れをしているのだろう
しゃがんだ大きな背中から詠は覗き込んだ
「なにしてるの?」
「うおわっ!?」
予想以上に飛び上がった十月の手元を覗く
十月が取り落としたのは小さな人形だった
「なにそれ?人形?」
十月は詠の姿を確認するとほっとした顔をして作業を続ける
十月の手や体からは土の匂いがした
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