桜舞う
・
酒のにおいがした
強く腕をひかれて熱く触れる唇に舌がさしこまれ深いキスに変わる
ずっとこうしていたいと思わせる長いキスは義孝から離された
息があがる
慣れた目に義孝がまっすぐに詠を見ているのが解った
「………これ、詠さんにあげます。大事にしてあげてください」
手に握らされたのは蛍石だった
義孝の指先がクッと詠の手のひらを軽く引っ掻いて離れる
「それでは、おやすみなさい」
触れるキスだけを残して義孝は部屋を出て行った
詠の手の中に石だけが残る
心臓がばくばくと暴れて顔が真っ赤になっていくのを詠は自覚した
あんなキス、初めてだ
熱をもった唇に触れる
詠だけでなく義孝も同じ気持ちになってくれていたりするのだろうか
「………うわっ……なんだかそれって」
詠はベッドに頭からダイブして両足をばたばたさせて枕に顔を埋めて何度も首を振った
心が跳ねだして飛んでいってしまいそうで手の内の石をもう一度眺めた
「………どうしよう。嬉しい」
ぎゅうと石を抱き締める
この石があるだけで、ただそれだけで詠は満たされていくのを感じた
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