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月夜に駆ける ヴァンガイVer.
※フリリク第二弾の白光騎士団×ガイに繋がる話です。
最後はヴァンガイ


掴み上げられた手は、わずかにまだ痺れを残している。
なるべく穏便にあの腕を振り払おうとしたのに、思った以上に強い力だったため出来ずにいた。
知らずガイはきゅっと下唇を噛み締める。
ヴァンに次いで客間に入ると、後ろ手に扉を閉める。
「助けられたな」
ガイの言葉に、ヴァンは僅かに顔を向け「気をつけるのだな」と感情の乗らない突き放すような物言いをする。
ガイは瞬時に顔を歪ませる。
視線を床に落としながら「ああ、わかってる」と答えると、ぐいと再び腕を掴まれる。
はっと顔をあげると、先程男から強く掴まれ、僅かに赤くなっている腕の内側にヴァンは唇を寄せる。
触れるだけだというのに、胸がどくりと跳ね上がる。
「わかっているとは思えぬがな」
咎める色合いが濃い言葉にガイは眉根を寄せる。
六つ年の離れた幼なじみは、外見も勿論の事、大人びているのを通り越して老成の域に達している内面も相まって、実際はその倍年が離れているようにガイは感じる。
今も、こうして掴まれた腕の皮膚をなぞるように動く乾いた唇から出る言葉は、出来ぬ子を叱る大人のようだ。
昔は素直にヴァンの言葉を何でも聞き入れていた。
だが、この頃は彼の言葉一つ一つに反抗心が湧いてくるのをガイは自覚していた。
この時も例外に漏れず、つい挑発するように言い返す。
「お前があんなにしつこくなければ、あいつと出会うこともなかったんだがな」
僅かに瞠目した後、ヴァンの瞳が鋭く細められる。


中庭奥の納屋で、先程まで二人は身体を繋ぎ合っていた。
激しく揺さぶられながら、それでも心地良いとガイは感じていた。
そうでなければ体躯に見合ったヴァンの性器をあの場所に咥え込む事など恐怖以外のなにものでもないだろう。
互いの熱を共有するそれは、目も眩むような心地良さであった。
だが、終わって離れてしまえば、性交の残り香を微塵も漂わせないヴァンの余裕がガイの癪に障るのだ。
衣服を着せようとする手を払うのはいつもの事だ。それでも懲りもせずに毎回ヴァンはガイの世話を焼こうとする。
今夜もいつのように手を振り払い、自分で身体を拭くので先に出るように言ったのは他ならぬガイである。
浴室でゆっくり身体を清めるつもりで、僅かに乱れた服のまま納屋を出たのもガイだ。
仲が良好とはとてもいえぬ白光騎士の一人と納屋を出てすぐに鉢合わせたのは不運であった。
その窮地を救ったのは他ならぬヴァンであるが、その要因の一つもヴァンにあるとガイは思っている。
ヴァンは掴んでいた手に力を込めると、ぐいっと引き寄せる。
咄嗟のことで、思わずよろけるガイを受け止めると、素早く僅かに腰をおろしてガイを肩に担ぎ上げた。
視界がくるりと変わり、一瞬呆けたガイであったが、そのままヴァンは無言で客間を歩き出す。
「お、おい。ヴァン!」
呼びかけに返事もせずにずんずんと歩く。背しか見えぬためヴァンの表情はガイには窺えない。だが、その背から怒りが滲み出ているようで、それ以上言葉を重ねることを躊躇わせた。
奥の扉をあけると、ようやくその場にガイを降ろす。
そしてヴァンはガイのシャツに手をかける。先程とは違い顔が間近にある分、ヴァンが明らかに不機嫌そうにしているのがガイにはわかった。
ボタンを二つほど外されて、はっとガイは我に返る。
ヴァンの刺々しい空気のせいで、つい流されなすがままになっている事に気づく。
「おい、何をしている」
制止するガイの言葉に、構わう事なくヴァンは続ける。
元々きちんとかけていたわけではないボタンは、ヴァンの手によって全部外される。
問答無用とばかりにシャツを脱がすと、次はズボンに手をかける。
慌ててその手を止めようとガイはヴァンの腕を掴むが、気にした風でもない。
「怒ってるのか?」
声が震えぬように問いかけると、ヴァンはそれこそ心外だと言わんばかりの表情を向ける。
「お前の方が先程から怒っているように私は感じているがな」
「べ、つに」
図星をつかれ、言いよどむガイにようやくヴァンは僅かに表情を緩める。
「ならば自分で服をぬぎなさい。湯はもう張ってある」
その言葉で浴室に連れてこられた事にガイは気づいた。
その意図がつかめずに、ヴァンをガイは僅かに視線を上げる。
「湯を張ったのでお前を呼ぼうと思ってな」
だからあの場にヴァンが居合わせたのだ。
「浴場はもう閉まっているはずだ。好きに使うといい」
そう告げるとさっさと背を向けて扉の向こうへと消えてしまった。
ヴァンの思わぬ気遣いに、ガイは居た堪れなさを感じる。
張られた湯に身を沈め、ガイは考える。
わかっているのだ。この頃のガイのヴァンへの苛立ちの原因は。
昔はルークの過度の重用のためいらぬ反感は買っていたが、今は皆とうまくやっていっている自信はあった。
だが、あの男を中心として数名からは敵意を剥き出しにされ、何かと嫌味を言ってきたり、こちらがキレて騒動を起こすように煽ってもくる。
相手にもしてはいないが、それでも面倒な事にかわりはない。
そしてそういう時にふと思うのだ。
おそらく、ヴァンならば、このような諍いなど気にも留めはしないであろう。
輝かしい経歴を手に入れた男に苦労がなかったなど思ったことはない。
しかしそれら全てを瑣末な事と切り捨てる強さをヴァンは持ち得ている。その事に妬心する。
ヴァンの強さが眩しい、揺るがない思いが羨ましい。
胸の奥に巣食う迷いが、益々自分とヴァンを遠ざけているようで。そしてこれからさらに遠ざけるようで、怖くもある。
そして。
気づけばいつの間にかこうして人目を忍んで身体を重ねる関係になっている。
切っ掛けがなんであったのかすら思い出せない程に、あまりに自然に、当然のように始まった関係だが、この頃苛烈さが増している。
先程も泣いて許しを乞うても、構うこと無く身体を貪られ、意識が何度も飛びかかった。
そんな激しさをみせるくせに、終われば情欲の欠片すら見せずに涼しい顔をしているのをみると、腹立たいような悲しい気持ちになる。
ぐるぐると感情が絡まって糸口がみえず、その原因となるヴァンに八つ当たり気味に接しているのだ。
「…なんだかサイテーだな、俺」
そして自己嫌悪に陥る。その繰り返しだ。
でも、今日はヴァンは自分の為に湯を用意してくれた。この時間使用人に使う浴場は閉められており、いつも清拭ですませている。
しばらく透明の湯をガイはじっと厳しい目で見詰め、それからザバリと音を立てて湯からあがる。



*********



「何故ガイラルディア様は私に反抗的なのだろうか」
浴室を出て、カウチに腰を下ろしてヴァンはガイを思う。
赤い髪の少年は人目も憚る事無くヴァンに反抗的な態度をとるが、それは表面上の事であり、内面は深く自分に傾倒している事をヴァンは知っている。
少年の矜持の高さを知っているからこそ好きにさせている。
だが、ヴァンにとってガイの存在は他とは大きく異なる。
この屋敷で再会した後も、昔とかわらず素直に感情をヴァンに向けてくれていた。
しかしこの頃は、ヴァンの言葉に、何故か不快そうに眉を顰めたり、急に不機嫌そうにむくれたりする。
己の言葉のどこがガイを不快にさせているのかさっぱりわからないのだ。
人の心の機微には聡いと自認しているが、ガイの事になると何も掴めずにいる。
屋敷内でみる限りは、ガイは誰とでも良好な人間関係を構築し、周囲の評価も高いようだ。女性恐怖症という体質でもありながら、困っている人間がそこにいれば、すぐさま駆け寄って手をかしている。
そこにおしつけがましさは欠片も見受けられない。好青年と呼ぶに相応しいと贔屓目なしでヴァンはガイをそう評価している。
自分のどこがそんなガイの神経に障る原因の端すらいまだに見いだせずにいる。
それでも身体を繋げれば、素直に縋ってきて愛らしい言葉を泣きながら紡ぐ。
どちらがガイの本心なのか見極められないでいるヴァンにとって、乱れながらヴァンの名を一心に呼ぶガイがそうであればいいと願い、必要以上に彼を追い詰め攻め立てる行為になっている事は自覚している。
それがあまり好ましく思われていないのだろうか。
それとも。
もう一人の赤い髪の少年の残像がヴァンの脳裏を過ぎる。
思わずヴァンは渋面をつくる。
そして、気にかかるのはあの騎士の男だった。
ガイは恐らく敵意を向けられていると感じているだろう。恐らくあの男すらも。
その根底にある感情をガイが感じ取ることなどないとヴァンは断言する。彼の考える世界はとてもノーマルでシンプルなものだからだ。
女性から向けられる素直な恋慕にはかなり聡いが、それ以外にはかなり無頓着である。
恋情を認めたくなくて、相手に向ける関心を憎悪だと思い込もうとする複雑な心境など知りもしないだろう。
色がかわるほどに、きつく握り締められた意味合いを、彼は知ろうともしないだろう。
ガイをみるあの男の瞳に、暴力的な衝動とは違う色合いの衝動を彼は見出すこともないだろう。
だからこそ注意を払ってほしいのだが、私の物言いではガイラルディア様の反抗心に悪戯に火をつけただけであった。
ふうっとヴァンは困り果てたように息を吐く。
さて、どうしたものか、と考えている時に、浴室に続く扉が細く開かれ、ガイがひょこりを顔をのぞかせている。
湿気のせいで、ふわふわと逆立てている金の髪が色濃くぺたりと張りついている。
「さっきの態度は悪かった。ごめんな。…………一緒にはいらないか?」




客間の陶器でできた浴槽は、広く作られてはあるが、それでも180センチ超えの男二人入るには適してはいない。
大量の湯を流し、ピタリと身体を重ねるようにしてヴァンの胸に頭を凭れかけて足をのばす。
ヴァンの唇が額に落ちてくる。
「これからの季節は清拭だけでは何かとつらかろう」
ヴァンの言葉は曖昧な提案だったが、ガイは充分理解した。
さてどうしたものかと返答を考えていると、どこかそわそわとした雰囲気が背後から漂っているようにガイは思えた。
すこし頭をずらし後ろを仰ぎ見ると、感情を削ぎ落したような眼差しをじっと向けられている。
だが、纏う雰囲気があまりに弱々しく、違和感をガイは感じる。
ふと、頭の端にとある考えが閃く。
「そうだな。たまには風呂を借りる事にするよ」
すると僅かに、僅かにだが表情を緩ませ、雰囲気が一気に輝くものへと変わった。
ガイは自分の返答でこうも変化するヴァンをみて、内心吃驚する。
6歳どころかその倍以上に年齢差を感じる程成熟し大人びた堅い男だと思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。
柔らかな湯に包まれ、また違う何かに包まれているようで、気持ちよくなりガイはそっと瞼を閉じる。
優しい唇が瞼の上におりて、それから唇に触れた。





なんかこれだけカラーが違うよ!!違いすぎるよ!!
ヴァンガイが当初は薄暗いやつを考えていましたが、どんどん書いているうちに今自分が書きたいVGになってしまいました。反省。

ラブイチャですが、その後に起こること考えたらシャレにならねーといろいろ思います。そしてそういうの好物です←
ルート三つ話書きましたが、ハムとヴァンルートにアレが起こったら翌々日には全員バチカルのドブ川に死体になって浮いていそうだと思いました。
ルークは箱入りだから気づくのがかなり後になるよ。そしておもいきり昼ドラ展開になるよ。

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