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フリリク第二弾
白光騎士団×ガイ 前編
部屋の中は精液と汗と雄の匂いが充満している。
埃がうっすら積もっている部屋の床に、支給された薄っぺらい毛布が敷かれている。
だがそれはぐじゃぐじゃに掻き乱れ、様々な体液でその色を変えている。
膝をついて腰を一心不乱に動かしながら、ハアハアとせわしなく熱い息を吐いている。
組み敷いた下からは、甘い嬌声が律動にあわせてあがっている。
それがまた男たちの情欲を一層に掻き立てる。
はじめは戯れであった。
少年をすこしばかり辱めるつもりだった。
庭師の孫で単なる下働きのくせに、公爵一家やナタリア王女にまで目をかけられている青年が目障りで仕方なかった。
だから薬を盛った。
その薬で乱れる青年を皆で嘲笑するつもりだった。
それだけのはずだった。

こんなはずではなかったのだ。


*********




白光騎士団はファブレ公爵家の私兵である。
屋敷の警備、公爵一家の警護が主に就いている。
家庭を持つ者以外は、広大な屋敷内にある騎士団の詰所にて寝泊りをしている。
子息が一度マルクトに誘拐された事もあり、屋敷で働く者たちは皆身分がしっかりとしているものばかりだ。
メイド達も当然であるが、警護にあたる騎士達はもっと厳しく審査されている。
下級貴族の末弟であったり、騎士の家系、裕福な商家などの出自の者が多い。
それゆえに騎士の中でもとりわけ年若い者、雇用されてまもない者たちは総じてプライドが高かった。執事のラムダス以外には、使用人相手には壁をつくって接していた。
そんな彼らにとって、ガイは大層目障りな存在であった。
公爵家子息であるルークと共にルークの婚約者ナタリア王女とも懇意な関係にあるガイは、彼らからすると単なる「平民の下働きの少年」に過ぎず、分不相応にしかうつらない。
ガイがルークの剣の稽古の相手に任命され、帯刀を許可された時から、若い騎士達はガイを生意気だと目の敵にした。
しかし、ガイはその年齢にしては、人の悪意をかわす術を心得ていた。
年少という立場を大いに利用し、彼らのプライドをくすぐりながら上手に立ち回り、必要以上の反感を買わないようにしていた。
そうしているうちに、いつの間にか彼らの中ではガイの存在は一応は容認される事となった。
だが、ごく一部の若者の間では、ガイに対して蟠りはいつまでも燻っていた。


切っ掛けは偶然の邂逅にあった。
ガイを敵視するグループのリーダー格である男は、非番の日に夕方から酒場で浴びるほどの酒をのんで過ごした。
酔いがまわりふらふらとした足取りで公爵家にたどり着く。
公爵家の裏口に廻るの面倒になり、門に立つ見張りの当番が顔なじみだったので玄関から特別にいれてもらう事に成功した。
そのまま見回りの目をかいくぐり、中庭へ続く扉を開けた。
中庭は限られた者しか足を踏み入れる事は出来ない。その先に騎士団の詰所があるが、騎士たちは皆大きく迂回をしなければならない。
その場所は公爵子息ルークが剣の鍛錬の場として与えられた庭であるからだ。
足を踏み入れるのは公爵夫妻とラムダス以外は、ナタリア王女、剣の師匠であるヴァン謡将と庭師。そして男が敵視しているガイだけであった。
夜だ、構うものか、どうせ誰も見ちゃいない、と酔いが回って気の大きくなった男はそのまま歩みをすすめる。
庭の半ばまできた時、中庭の端からなにかが現れた。思わず構えると、そこには白いシャツをやや着崩した青年がいた。
こちらも驚きに瞠目したが、向こうも目を見開いている。
ガイは視線をふいっと逸らすと「誰かに見つかったら大変ですよ」と小声で呟くと、どこかおぼつかない足取りで男のそばを通りすぎようとする。
横を通り過ぎる際、ガイの腕を掴み上げる。毎日鍛錬をかかさない騎士の握力は、ガイの顔を顰める程に強かった。
「お前こそ、こんな時間にコソコソ何やってんだ」
見つけた、と男は思った。いつも隙なく立ちまわるこの少年の弱みに今自分が触れているのだ、と男は確信した。
「なにも」
平静を装ってはいるが、返す返事は硬くその表情に動揺が強く差している。
夜の中庭の光源は外灯と月明かりだけだ。
青白い光を受けたガイは、昼間の人好きのする穏やかな笑顔や気安さも鳴りを潜め、どこか冷たく他を拒絶するものであった。
刹那、男の中に凶暴な暴力の衝動が沸き起こる。
少年の整った顔を苦痛で歪ませて、涙を流して許しを乞う様をみたい。雄としての本能が目覚める。
腕を掴んでいる手に力が篭る。ガイが「つっ」と僅かに漏らして、眉を寄せる。
殴ればこの少年は泣くのだろうか。
いや。おそらくは強い眼差しを返してくるだけの話だ。
ならば、どうすれば。
男の思考は背後から飛んできた声によって停止する。
「こんな時間に何をしている」
小声ではあるが、十分過ぎる程に男の肝を冷やす威厳に満ちている。
振り返ればもう深夜に差し掛かろうとしている時刻であるのに、まだオラクルの僧衣を身に纏ったヴァンが立っている。
ヴァンは二人を見据えると、僅かな間、何かを思い巡らせると「ガイ、だったな。私の客間の灯りがひとつ消えているのだ。取り替えてもらえないだろうか」と声をかける。
そんな事実がない事をこの場にいる全員がわかっている。だが、これで場の収拾はつく。男はゆっくりと掴んでいた腕を離す。
「不手際をおかけして申し訳ございません」
ガイはヴァンに向かい軽く頭をさげると歩みを進める。
ガイの背を男はいつまでも見続けた。扉の向こうに消えてもまだじっと見据えたままであった。酔いはとうに覚めたその瞳は、冷たく研ぎ澄まされた視線を扉の先に送っていた。


次の非番の日、男は下町の奥、娼館の手前にある怪しげな店に足を運ぶ。
目当てのものを懐にいれると足早にその場を立ち去る。
さあ、どんな顔をみせてくれるやら
その姿を考えるだけで、男の足取りは軽くなった。


男を慕っているメイドにガイの夕食に薬を混ぜるように命じた。
地味な少女は男に少しでも気に入られたく、手にしたボトルの中身がどんなものなのか考えもせずに言いつけに従った。
液体の混ざったスープをガイはのみながら、周囲の者たちと談笑している。
食事が半ばまで進んだときに、ガイは違和感に眉を顰めた。
手を止めると「わるい、先に上がらせてもらう」と告げると、席を立ちそのまま食堂から出て行った。
少女はその後姿を見送りながらすこしばかり胸を痛める。
きっと下剤かなにかだわ、もう、あの人ったら子どもみたいな悪戯をするんだから、でもこれで今度の休日はデートをしてくれる。ああ、どんな服を着ていこうかしら。
自分の冒した事への罪悪を感じるより先に、己の恋の成就を脳裏に描き始め、ガイの事を頭の片隅に追いやった。
食堂を出たガイは、ハアハアと荒く息を吐きながら、壁に手をつきながらよろよろと歩く。
身体の違和感は時を刻むごとに大きくなっていく。
熱い、とガイは感じた。強烈なアルコールでも混ぜられたのだろうか、と澱んでいく頭で考えながら廊下の壁に背を預けて、シャツのボタンを二つほどあける。
ぱたぱたと仰いで風を送るが、熱は高まっていく一方だった。
がくがくと震える自分の両脚を叱咤して、自室に戻ろうと歩みを再開する。
だが数歩進むと、がくりと身体が落ちる。片膝をついてなんとか留まるが、これ以上歩くのは厳しく感じていたガイの頭上から声が落ちてくる。
「おいおい、何やってんだ」
ゆるりと見返すと、そこには甲冑を纏った騎士がいた。
甲冑のたてる金属音にさえ気付かなかったのか、と五感の一部は鈍り、そして一部はあまりにも敏感になっている事にガイは気づく。
「連れてってやるよ」
有無を言わさずに腕をとられると、ぐいっと引き上げられる。
礼を言うべきなのか、とガイが目を細めながら甲冑の奥にある男の顔を見極めようとする。
にやり、と隙間から男が笑ったのガイの双眸が捉えた。
腕を振り払おうと身を捩るが、そんなささやかな抵抗をものともせずに、騎士はガイを肩に担ぎ上げると用意していた部屋へと向かう。


中編


あきゅろす。
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