[携帯モード] [URL送信]
51215 二人とも幸せなルクガイ 前編
「恋愛はね、惚れた方が負けなのよ」
肩をすくめる黒髪の少女の言葉を、ルークは頬杖つきながら、ふーんと興味なさげに相槌をうつ。
「あら、そうかしら。相手をより深く愛する事は、とても素晴らしいですわ」
優雅な仕草で手を口にあてて反論するのは、金色の髪の幼馴染である。彼女はとても真面目でロマンチストなのだ。
「そうね、どちらの言葉も正しいと思うわ。結局は、その二人の関係性によるんじゃないかしら」
そう語る亜麻色の髪の彼女は、自身の恋愛経験は皆無であるが他者の事になると冷静に的確な考えが出来るのだ。
「はい。世の中に愛しあう二人がいれば、その数だけの答えがあるのでしょうね」
柔らかく微笑みながら、緑の髪の生まれてニ年の少年は穏やかな声で無難な事を口する。
凡庸な言葉がすんなりと人の心に染み渡るのは、彼の人徳によるところであろう。
女性陣が彼の言葉に深く聞き入っている所に、たまりかねたルークは
「だー!!!つーか、なんで俺はここで女どものクソつまんねー話聞いてんだ」
短くなった赤い髪を盛大に掻きむしりながら、絶叫する。
その言葉に女性陣は、一人は不穏な、一人は呆れを、一人は冷ややかな、それぞれの空気を一瞬にして纏う。
「そうですか?僕はすごく楽しいですよ。ルークもこういうお話は嫌いではないと思っていましたが」
とにこりと優しげにイオンに微笑まれると、う、とルークは言葉をつまらせる。それ以上言葉を紡げずに、みよがしな吐息をついてテーブルに突っ伏す。
「まあ、ルーク。無作法でしてよ」
早速世話好きの幼馴染からたしなめる言葉が飛ぶが、聞こえない振りをする。
はあ、と突っ伏した姿勢でもう一度ルークは吐息をつく。
「しょうがないよ。今日のルークは振られて傷心なんだよねー」
からかうアニスの声に思わず
「ふ、振られてねえよ。変な事言うなって!!」
がばっと起き上がり反論するが、「何もかもわかってんだから」と言わんばかりに半目でにやりと笑う少女の相貌の前にして、その勢いはみるみる萎んでいく。
「ヘタな駆け引きをするからこうなっちゃったんだね」と、ルークにだけ聞こえるようなつぶやきに、ルークは止めをさされ言葉を失う。
再び頬杖をつき、不自然な動作で、視線をアニスから逸らし店内へと巡らす。
「おっせえ、何やってんだ。早く茶をもってこいっつーの」と、八つ当たり気味なルークに、やれやれとアニスは肩をすくめてみせた。
このままではアニスに色々つつかれるのは火を見るより明らかだ。さっさと退散するに限る。
ルークは漸く届いたシフォンケーキを一気に平らげ、紅茶で流し込むと
「じゃ、俺先帰ってるから」と席を立つ。
当然のように彼女たちの買い物を両手に抱える姿にティアが礼を述べる。
「運んでくれるの?ありがとう」
「いーよ。でもこっからの買い物は自分たちで持ち帰れよ」
「はーい。ルーク、やっさしー。
あ、夕食どうする?大佐はどうせ研究施設にこもりっぱなしだろうし、ガイは譜業観光で時間忘れるだろうし」
「適当に俺らは食べるだろうから、気にせず楽しんで来いよ」
袋を抱えたまま片手を振ってから店を出る。
宿屋までの道のりをのんびり歩くルークの耳に、ベルケンドのあちこちにある歯車の回る音が届く。
こんなものにさえガイは目を輝かせるっていうのに、と歯車相手にも八つ当たり気味な嫉妬を向けそうな自分に苦笑いする。


*********


アルビオール操作中に僅かな違和感を覚える、というノエルの言葉に、シェリダンで一度点検をした方がいい、と皆で判断を下した。
点検修理に数日かかるかもしれないとの事で、ならばその間、シェリダンとそう遠くないのベルケンドで下ろしてもらえないかとジェイドが提案をした。
研究施設でなにかやりたいことがあるらしい。
皆さんシェリダン、ベルケンド、どちらにします?というジェイドの言葉に、アニスが「断然ベルケンド!!だって美味しいシフォンケーキのお店あるしぃー」と答えると、ティアもアニスもイオンもそれに賛同した。
うーん、どっちも捨てがたいなあ、と唸るガイに痺れをきらせたルークもアニスに賛同し、結局皆でベルケンドに滞在する事となった。
宿について一息ついた後、ガイから「この後どうする?」と尋ねられたルークは、ちょっとした、本当にちょっとした悪戯心が脳裏をかすめた。
「えー、あー、…あ、アニスから、『ルーク、買い物するから荷物もってえー』って頼まれてんだ」
けど、お前がちょっとでも残念な顔したら断るつもりだけど、という言葉は胸の中にしまっておいた。頼んだアニスだって全く期待してない様子だったし。
だがルークの胸中など知らぬガイは「へー、頑張ってこいよ」とあっさりとしたものだ。表情は微塵も曇りもしない。
「ガ、ガイはどうすんだよ」
「譜業観光してくる!!!」
キラキラした目で勢い良く答えられ、「あ、そう」としかルークは言葉を返せずにいた。
がっくりと気落ちしながら、女性陣の買い物に付き合いながら、ルークは溜息ばかりこぼしていた。
なんでこうなるんだろ、という思いがぐるぐると渦巻いている。
少し前に、いわゆる正式な「お付き合い」がはじまったのだ。
それまでは、言葉にしないままずるずると屋敷時代の関係を続けてきたが、「このままじゃいけない、俺変わらないと」一念発起したルークが気持ちを告げたのだ。
その時の事を思い返せば頬が熱をもつ。でも、ガイの答えはルークを有頂天にさせた。
大好きな相手が自分を好きだと言ってくれる、なんて幸せな事だろう。世界が一気に光をまして煌めいている、そんな錯覚を起こするくらいにルークは浮かれた。
だが。
変わらないのだ。
…ガイの態度が何一つ。
告白前と後では多少なりとも態度の変化があるのではないのか。
だがガイは常と変わらない。
これは先にあれこれヤッてしまっているのが原因なのか。手を繋ぐ事は物心つく頃には当然になっており、キスをする事も、もっといえばその先も屋敷時代に全て済ませてしまっている。
あの告白は、ただ単に屋敷時代から続けてきた肉体関係をガイの中で理由付けただけで終わっているんじゃないだろうか。
決死の覚悟でした告白がそんな扱いなのも悲しいが、それは自分の今までの不徳の致すところであるから仕方ない、とルークはまたため息を深くつく。
もっと悲しいのは、ガイにとって自分という存在が「庇護すべき相手」というものから変わらない事なのだ。
だからアニスから頼まれた事を、ガイそっちのけで手伝えば嬉しくて目を細めるのだ。
言葉にしなくても「ルーク、成長したな」と考えているのが手に取るようにわかる。
だがルークは違う。自分をそっちのけでガイがジェイドと食事に行けば、とても嫌な気持ちになる。落ち着かないし、いらだちもするだろうし、「お前は俺のもんじゃないの?」と詰りたくもなる。
そんな自分が子供なのだろうか。
それとも俺の「好き」とガイの「好き」は大きく違っているんじゃないだろうか。
思考の泥沼に引きずられそうになるのを、顔を振って追い払う。

後編


あきゅろす。
無料HPエムペ!