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フリリク第二弾
あまあまジェイガイ 中編
啄むようなキスを幾度となく繰り返す。
優しいふれあいだというのに、それだけでもガイは下半身が甘く疼いてくる。
少しずつ深く濃厚になっていく口づけに、どんどんと熱が高まってくる。
「ん…」
鼻にから漏れる息も甘くなっていく。
寝衣の裾から侵入してきた手がゆっくりと身体をまさぐる。
ぞくりと肌が粟立っていくのをガイは感じる。
だが、いつもと違い何か様子がおかしい。
ん?とゆったりと快楽へと落ちていこうとしたガイの思考が急激に冷静さを取り戻す。
脇腹を、何か確かめるようにさすっていたジェイドは、手に動きをピタリと止める。
唇を離すと、それから寝衣の前に手をかけると、一気に左右に開いた。
ぽかん、と。
まさにガイはポカンと蒼い目を丸くしてジェイドを見る。
ジェイドは観察するような研究者のごとく、瑣末な事を見逃さない鋭い視線をガイの半裸に寄せている。
あまりの事に一時停止していたガイだったが、ようやく事態に気づきあわてて前を合わせる。
「隠さないでください」
「乱暴にされるのはあまり好きじゃないんだが」
「どうせすぐ脱ぐのだから、ほら、早く前を開きなさい」
「あんた、遠征中どこでデリカシー落としてきた!今から俺が拾ってきてやるから、この手を離せ」
「陛下と違って常に私は持ち合わせています。ですが、これは緊急事態です」
「何が!!!」
シルク生地にきつく皺が寄る程に前をガードするガイと、それをこじ開けようとするジェイド。
その攻防は、槍使いの腕力に軍配があがった。
「やはり。ガイ、あなた痩せましたね」
さわさわと脇を撫でながらジェイドは真顔でガイに詰め寄る。
ジェイドの言葉にガイは我が耳を疑った。
それから視線を己の脇へと落とす。
別に脇にあばらが浮いているわけではない。
仕事や会議におわれながらも鍛錬は欠かさないので、腹筋だって綺麗に割れている。
「そうか?」
「ええ、痩せました。触りごこちが以前と違います。きちんと食事はとっていますか」
「そりゃま、一応」
ここ数日忙しくて朝食もそこそこに登城しなくてはならなかったり、昼食を食べながらの貴族会の会議が行われたりなどで「きちんと」と言われると返事に窮するが、それは別に今に始まったことではない。
だから素直に肯定も出来ねば、否定も出来ないガイは言葉を濁すが、ジェイドは見透かしたように、はあっと盛大に溜息をつく。
「だからあなたは貧血で倒れるんですよ」
「は?誰が」
思わず聞き返すガイの声は間が抜けていた。
「あなたの事ですよ。ピオニーがあな………」
はっと気づいたジェイドが言葉をきるとそのまま掌で口を覆う。
ピオニーの名前で、ガイも事情がわかったらしい。がっくりを肩を落とす。
「どこの深窓の令嬢だ、俺は」
ピオニーのからかいなど今に始まった事ではない。
特に二人が付き合い始めた時など「あーあ、皆、俺をおいてくっつきやがって」と本気で口を尖らせてぶーたれ、あれこれちょっかいのようなものをかけてくる。
だがその類はまるで子どもの悪戯のようなたわいのないものばかりであった。
ジェイドがそのような類に引っかかるとは、とガイは溜息をはくと
「どうしたんだ、あんたらしくもない」
そう言葉を漏らす。
まんまとピオニーの悪戯にのってしまったのが余程不本意だったらしいジェイドは、額に手をあて顔を顰めながら、はあっと盛大に溜息をついた。


「出立前に少し無理をさせてしまったので、それが原因ではないかと考えてしまいました」
珍しく弱々しい言葉をぽつりと零され、ガイは瞠目する。
ガイはまじまじとジェイドを見つめて「出立前の少し無理な事」を思い出し、顔に熱が集まる。
確かに、まあ、あれは、そうだったなあ、と言いながら頭を掻きたくなったが、ガイの手はいつの間にかジェイドの手が上に重ねられてかなわない。
「ガイ、先ほどあなたは『ガイ』の名が恋しくなるかと私が尋ねた時、肯定しましたね」
手は重ねたままジェイドは額をガイの肩に押し当てる。
「私はそういう事はありません。
バルフォアという名を捨てた時も、研究を破棄した時も。
零れ落ちたものを顧みる事無く、他人にさして執着するわけでもなく。
この手から離れていったものを恋しく思う感情は無縁のものでした。
ですが」
一度言葉を切る。ガイの肩口はジェイドの熱を伝える。
僅かな沈黙の後に、ジェイドは言葉を紡ぐ。
「離れている間、あなたがとても恋しかった。とどめを刺すような書簡まで届きましたし」
書簡のあたりの声はかなり冷ややかで、ガイは自分に向けられたわけではないが、ぞくりとしたものが背を走った。
そして胸のうちで「今回ばかりは俺は助け舟出しませんからね」とピオニーの行く末を見守ることに徹しようと決める。
ガイは気づく。
伝書鳩が届ける私的な書簡には常に自分の身体を案じる言葉があった事。
再会した時に、気遣わしげな視線と言葉をかけられた事。
他人に対して冷淡だとジェイド自身考えているようだが、ガイはそうではない事を知っている。
人の身体をさわって健康チェックするのは如何なものかと思うが、それだけ深く心配し、大事にされていることを改めてガイは実感する。
『寂しくありませんでしたか?』と問うたジェイドの声が脳裏に蘇る。からかうような口調とは裏腹に、細められた赤い瞳の奥からのぞいていたものは。
「俺も寂しかったよ」
ポンポンとあやすように肩にうずめたままのジェイドの背を叩く。
先程は照れてどうしても言えずにいた言葉だった。
甘えて、甘えられて。
寄りかかって、寄りかかられて。
互いにまだ恋愛に不器用なところを抱えながら、こうして少しずつ二人で形をつくっていくのだとガイは思う。
それはとても幸せな事ではないだろうか。
この時、幸福感に溺れたガイは不用意な発言をジェイドの耳に注ぎこむ事となる。
「寂しかったから、ジェイドにもっと触れたいよ」
すぐさま後悔する事になる誘い文句とやらであった。

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あきゅろす。
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