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フリリク第二弾
甘い空気のルクガイ 前編
※赤毛二人帰還ED前提です。ED後一年後くらい



今日も朝の市場は賑わい、活気に溢れている。
ふと、目に止まったものを一つ手に取る。手首を返すとそこには見知った焼き印がおされている。
「その焼き印はエンゲーブ産の証だよ」
店主の言葉に青年は微笑んで「知ってる。うまいよな」と言葉を返す。
「ああ、蜜もたっぷりで瑞々しいよ、どうだい?」
「そうだな」
僅かに逡巡した後、指を二本立てて見せる。
「じゃ、二つもらうな」
「あいよ」
提示されたガルドを払うと、袋に入れてもらわず左右の手それぞれに赤いリンゴをおさめる。
金を払うことすら知らずにいたから大騒ぎになったんだよなあ、と昔日の自分を思い出してくすりと小さく笑う。
視線を先に送ると足を止めて待ってくれている青年が、仕方ないな、という表情で自分を見守っている。
「ガイ、お前も食べるだろ」
そう言って手の中のリンゴを放る。
ガイは両手で袋を抱えていたが、突然放られたリンゴに慌てることなく、左腕で袋を抱えなおし、右手でそれを難なく受け取る。
「無駄遣いはしないんじゃなかったのか、ルーク」
「いいじゃん、エンゲーブ産だぜ、このリンゴ」
小走りでガイの隣に駆け寄ると、ルークは歩きながら手にしたリンゴに齧り付く。
口の中に瑞々しい甘さが広がる。懐かしい味だ。
ガイは手にしたリンゴを袋の中に入れる。
ルークは自由奔放に育てられた事もあり、リンゴを歩きながら口にする事に躊躇いはなかったが、ガイはそうした行為はよほどの事がない限りはしなかった。
きっとあのリンゴは食後に、ウサギに形を変えて俺に食べさせてくれるのだろう、とルークは予想をする。
腹に入れば一緒だろ、と貴族子息らしからぬ所をもつルークは、家で出される綺麗にカットされたフルーツ達に対して常にそう思ってきた。
だが、ガイが作るウサギリンゴは昔から気に入っている。
その事を当然ガイは知っている。だからきっとあれは食後に出てくるはずだ。
だって俺ガイに愛されているし。
そんな傲慢なほどの自信にルークは満ち溢れている。
「今日の夕食はチキンがいいな」
「お前なあ、一昨日もチキンだったぞ。そして昨日がエビ料理」
「昨日のエビは海鮮料理好きなガイに譲歩してやったんだぞ」
「なんだ、その押し付けがましい言い訳は」
「チキンたべてえー。俺まだ若いから肉たべてー」
袋を抱えていない右腕のシャツを掴んでぐいぐい引っ張ると、お、おい、よせってとガイが僅かに動揺する。
左腕に抱えた袋の一番上に入れられたリンゴが、中でころころ転がって袋の端から転げ落ちそうになっている。
「わかった、わかったから。ったくしょうがないな、その代わり野菜もちゃんと食べろよ」
ガイの言う野菜が何を指し示しているか誰よりもわかっているルークは、うへえ、と顔を顰めて見せる。
「じゃチキンはナシだな」
そう言うと肉屋に向かっていた足を止めるので、慌ててルークは
「……グラッセにしてください」
せめてもの譲歩案を提示してみる。
それに、よし、と頷くと再び歩き始める。
くそう、昔は「俺が人参ダメなの知ってるだろ」とちょっと情けない顔したら、仕方ないなあ、と許してくれてたんだけどな。
ルークは過ぎ去りし日のガイの甘さに想いを馳せる。
でもこっそり摩り下ろしていれていた事もルークは知っている。先日本人から聞かされたからだ。
なんだって、騙してたのかよ!と詰め寄ったルークにガイはしれっと「騙したは酷いな、お前の健康を考えての行動だ」と言ってのけた。
そんな風にガイの甘さは昔と変質しているのをルークは身を持って知っている。
無闇矢鱈に甘やかされていた屋敷時代が懐かしくもある。だが。
一口でも食べれば顔を輝かせて、大仰に褒めちぎるのだ。
それはルークにとってとてもとても恥ずかしく、そしてとてもとても幸せな事であった。
サラダには何をいれようか、と言うので、パプリカと答えると、ガイの青い瞳は驚きに丸くなる。
「だって、俺とお前の色だろ」
ルークの言葉に、ガイの目は優しく細められた。




シュザンヌが夏場の保養地として構えている屋敷がある。
緑豊かな静かな場所で彼女は大層気に入っている。
帰還後定期的にベルケンドやマルクトに赴き検査を受けている息子に
「あの屋敷を好きな時に使ってよいのですよ。近くには湯治場もあります。身体を少し休めてみてはどうかしら」
と声を掛けたのは先日の事。
喧騒をあまり好まぬシュザンヌとは違い、自然だけはたっぷりありますな田舎に退屈しか見いだせぬルークは、どう母を傷つけずに好意を断ろうかと考え言葉を選び抜いている最中
「えー、えーと、母上お気持ちだけ有り難く………あ、やっぱり行きます!」
と考えを翻した。
その変わり様に、後ろでやりとりを見守っていたアッシュは嫌な予感に僅かに眉を顰める。シュザンヌは嬉しそうに顔を綻ばせている。
「まあ、では早速コックやメイド達や騎士達の手配をしましょう」
シュザンヌの屋敷は定期的に管理を行ってはいるが常駐はしていない。保養や視察の際には彼女の専任のコックやメイド達や白光騎士団が同行している。
「俺一人で大丈夫です」
その言葉にシュザンヌが瞠目し、まあ、と小さく言葉を漏らし、益々アッシュの眉間の皺は深さを増す。
「俺はあの旅で料理も出来るようになったし、洗濯だって掃除だって出来るようになったんです、母上。だから大丈夫です」
胸をはる息子にそれでもなおシュザンヌは不安げな視線を送る。たしかに一度口にした息子の料理は驚くほどの腕前でその成長を喜ばしく、そしてどこか寂しさをシュザンヌは覚えたものだ。
だが、一人でやるには何かと限界がある。そして息子の気性もよく分かっている。
「でもあなた一人では…そうだわ、お友達も誘ってみてはどうかしら」
よい案とばかりに顔の前で手を合わせて笑う母に、ルークもにっこり笑ってみせた。
「はい、じゃガイでも誘います」
やっぱりな!!!と後ろで怒鳴り散らすのを母の前だとぐっと堪えているアッシュの、射殺すばかりの鋭い視線がルークの背に突き刺さるが本人はさして気にした様子もない。
「ええ。国が違えど親友を大切にする事は、とてもよい事ですわね」
ふふふと穏やかに笑い合う母と息子の後ろで、「いいわけねええええ」と怒鳴りたいのをアッシュは必死で抑え込んでいた。


という事でマルクトのガルディオス伯爵と共にルークはシュザンヌの屋敷でのんびりと過ごす事となったのだ。
朝から晩まで二人っきり、最高!とルークが思ったのは初日だけで、食事に洗濯に掃除に買い物にと結構何かとやることは後から後から出てくる。
どちらかといえば二人とも部屋が汚いのは落ち着かない気性であり、食事に関してはガイは自分のことはさておきルークにきちんとした食事させる事に使命感を感じており、三食きっちりと取っている。
そして洗濯は諸事情により毎日シーツが汚れるのでこまめに洗わねば溜まっていく一方になる。
買い物は最新式の大型音素冷蔵庫があるのでそこまでこまめに行く必要はない。
だが、ベルケンドからB級品やパーツを売る譜業行商が三日に一度市場にやってくるため、乗り気でないルークをガイがぐいぐい引っ張っていく形で通いつめている。
そんな訳で、当初ルークが思い描いていたようなあまーい新婚さん生活とは少しズレている。
それでも二人きりで人目を気にせずに、ガイに触れることはルークにとってこの上なく幸せであった。
例えば、今。
昼寝から覚醒したルークの後頭部にあるものは柔らかい枕ではない。
無駄な肉がついていないため、柔らかさとは対極にある太腿である。
それでも心地良い。三桁はくだらない程にこの膝の上で転寝したため、頭の位置を整えずとも適正な位置を身体が覚えている。
「起きたか」
柔らかい声が降りてくると、甘えるようにごろりと身体を横にしてガイの腰に腕を回して顔を埋める。
シャツから香る柔軟剤は自分と同じもので、二人で同じ匂いを共有しているのかと思うとそれだけでうれしくなる。
「足、固まったろ?」
ガイの腹部に顔を埋めたままルークが問いかけると、さあ、どうだろうな、と本をサイドテーブルに置きながら曖昧にガイは答える。
「揉んでやろうか」
「…ルーク坊ちゃんにそんな真似させられません」
ガイのわざと畏まった屋敷時代を思わせる口調に、ルークががばりと身を起こす。
「うわ、やな返し方すんなよ。人が親切に言ってやってんのに。ほらご主人様が凝り固まった太腿を揉んでやろう」
手を置いた太腿をグイグイと押すとガイは笑って身を捩る。
「やめっ、お前、くすぐったっいって」
「ほらほら、ここか、ここがいいのか」
「どこのおっさんだ、お前は!ひゃ、ちょっ」
ルークの手を押し戻そうとするガイの手に構わずに、腿の内側、下肢の付け根の傍をグイグイ押すと「わ、ぎ、ギブ!!参った、降参」とガイの口から情けない声があがる。
にーっと笑ってみせるルークに「二度とお前に膝を貸さない」と出来もしない事をガイは口にする。
「えー、そりゃやだなあ。俺、ガイの膝…っつーか太腿が一番寝心地いいもん」
ガイの機嫌をとりなすように、甘えを含んだ言葉を吐いた口はそのままガイの頬に滑らせる。
ガイはくすぐったそうにしながら「固いし枕には向いてないと思うけどな」と僅かに苦さを含ませて笑う。
「向いている向いてないの問題じゃないだろ。理由聞きたい?」
翠の双眸がガイを見据えて問いかける。
「いや、聞かなくてもわかる」
「なんだよ無粋だな、言わせろって」
「お前から無粋と言われるとはなあ」
からかうように肩をすくめてため息をはく恋人の下唇を、ルークは自らの唇でぱくりと挟むようにして喰む。



キラキラと輝いた翠の双眸がこれ以上になく近くにあって、ガイは内心たじろぐ。
まさか。
まだ陽は高いままだっていうのに。
そんなガイの動揺はそのまま蒼の双眸に浮かんでいる。
いたずらを仕掛ける子どものように、食んだまま舌をだしてガイの下唇をゆっくりと舐める。
それだけで、ぞくりとガイの背筋が震える。
数えきれぬ程にしている口づけであるが、いつまでも始まりの合図のように交わされるそれにはガイは慣れずにいる。
心臓が跳ね上がり、じわりと身体が熱を持ち始める。
そしてこれから先の、これだって数えきれぬ程に交わしている事への期待で身体は甘く疼く。
結局ガイはルークの腕の中で溺れることを望むのだ。

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あきゅろす。
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