[携帯モード] [URL送信]

フリリク第二弾
ルクガイ(無理やり)前編
使用人の部屋での火気は厳禁とされている。
だが、ガイは一月、もしくは二月に一度、深夜蝋燭を使う。
読んだ手紙を蝋燭の火で燃やすために。
黒く焦げた残骸を見届けてから、ふっと蝋燭の灯火に息を吹きかけて消す。それを見守るペールは何も言葉をかけない。
家族、親族を失ったガイに、この屋敷の外から便りをくれる人物はただ一人。
仇の屋敷の中で燻っている鬱屈した想いと共に、復讐を果たした時に自分には何が残るのだろうか。
そんな不安に押し潰されそうになると、頃合いを見計らったように届く手紙は、彼を深く知る人でなければ驚く程に細やかな気遣いや優しさに溢れたものであった。
それは、ガイがこの屋敷から「外」へ通じる一つの細い糸であった。
遠い未来にはその糸を自ら断ち切ることとなるのだが、今はその糸の存在が、孤独を少しばかり和らげてくれるものであった。


「ガイ、あなたに手紙よ」
メイドがガイに手紙を渡す。「ありがとう」すこしばかりの距離をとりつつ受け取ると、そのまま足早に部屋に戻る。その足取りは彼の心のままに軽快だ。
その様子を、公爵家子息であるルークの目に止まらせている事も知らずに。
手紙を受け取ったガイの表情や、彼がそれを待ちきれぬ様子で部屋に戻る様子に、少しばかり瞠目する。
彼の好きな音機関関係の書簡なのだろう、と考えているルークの耳に、メイド達のおもしろがった声が入ってくる。
「ガイとあの手紙の子って長いわよね」「えっ、あの手紙って、ガイの彼女からなの!彼、女性恐怖症でしょう」「ばかねえ。ガイのあの顔みたでしょう。恋人じゃなきゃ誰だっていうのよ」
彼女たちの下世話な会話を遮ったのは、ルークの苛立った声であった。
「おい、ガイのその手紙はよく届くのか」
急に声を掛けられて、メイド達はビクリと身体を跳ねさせる。振り返ると、そこには主の証である赤い髪の少年が立っている。慌ててメイド達は頭を下げる。
「ルーク様!申し訳御座いません」
私語を咎められると思い身体を竦めるメイド達に、ルークは鬱陶しそうに手を振って、それはいいって、と言い、再度、先程投げかけた問いかけをする。
メイド二人は顔を見合わせ、それから一人がようやく口を開く。
「え、ええ。一月か二月に一度の割り合いですが、私がこのお屋敷に勤めさせて頂く前から届いていたようです」
その言葉を受けて、ルークの胸はズキリと痛む。
締め付けられるように痛く苦しくなり、思わず顔を顰める。その様子を自分たちへの不興と受け取ったメイド達は益々身体を縮こませる。
その様子さえ、何故か心が苛立ってくる。
「ガイに手があいたら俺の部屋に来るように伝えろ」
そう告げると彼女たちに背を向けて自分の部屋に戻る。震える足を叱咤しながら歩を進める。
何故、震える?足も、固く握った拳も。
胸の苦しさの正体は判らないが、それならばわかる、とルークは胸の内で即答する。
それは、怒り。明確な、ガイへの怒りの感情だった。


「遅くなった、悪いな」
ガイが部屋に足を踏み入れた時、ルークはベッドに横になっていた。だが、寝ているわけではない。
「いーよ、別に。どうせ手紙読むのに時間かかったんだろ」
ルークの言葉に、ガイは目を数度瞬かせる。ようやくルークの言葉を読み取り、いつものように眉尻を下げて苦笑いを浮かべる。
「おーい、どうした。俺が手紙もらって拗ねてんのか」
「そういう問題じゃなくてさ。ちょっと疑問がある」
予想外の反応にガイは少し驚く。てっきり彼の中では「ばっか!誰が拗ねるかっ!」と怒りか照れで頬を赤くしながら怒鳴るルークの姿を思い描いていた。
注意深くルークの様子をさぐると、何か思い詰めたような表情をしている事にガイは気づく。
ご機嫌斜めなのか、とガイは表情の真意を読み違え、場の空気を明るい方へと持って行こうと、殊更陽気な口調で問い掛ける。
「なんの疑問だ?俺にも手紙の一つや二つは」
「そうじゃなくってさ」
上体を起こして、ルークは気怠げにガイを見上げる。ルークの左手が空に無言で差し出される。
起こせという事なのだろう、とガイはその手を掴む。引き寄せる前に、力強く引き寄せられた。
「うわっっとっ!」
突然の事にみっともなく声がひっくり返る。顔が絹のシーツに埋まったかと思うと、すぐさま綺麗にひっくり返される。
「お前…びっくりしただろ」
抗議の声をあげるガイの動きを封じ込めるように、ルークは跨るように乗り上げる。
それでもウエイトの差は歴然で、ガイが腹筋に力を入れて上体を起こせば、ルークはあっさり後ろに転がってしまう事は容易に予想出来た。
だが、まだガイはこの状況を単なるじゃれ合いだと思っている。ガイが楽観している今やっとかないとな、とルークは手際よくガイの腕を一つに纏め上げる。
ベッドヘッドに予め結ばれていたバスローブの紐に括りつける。
その時になって漸くガイは眉根を寄せて、訝しげにルークを見上げる。
「ルーク?」
腕の動きは封じた。後は。
ガイに背を向けて腹の上に腰を落とす。うっ、と苦しげなうめき声が漏れる。
ブーツを脱がせ、そのまま部屋の隅に放り投げる。次はタイツに手をかけて下着ごと取り払う。
「ルーク!お前、何考えてんだ!降りろ!からかうのはヤメろ」
ガイの珍しい怒声に、ルークは酷薄に笑う。
だよなあ、何考えてんだろうな、俺。ガイが屋敷の外にも交友関係があるのは当たり前だ。俺とは違ってこいつは何処にだっていける。
なのに、そんな当然のことさえ、苛立ちを覚える。俺の知らないところで、誰かと親しくして、そんなヤツからもらった手紙を嬉しそうに受け取るガイに、なんでこんなに怒っているのか。
そして、これからガイにしようとしている事とか。
ガイの腹の上の腰を落としまま、ルークは上体を捻ってガイの顔を見下ろす。
怒りなのか、羞恥なのか、顔を紅潮させて激しく睨み上げてくるガイを、歪んだ昏い笑いで返す。
「さっきの疑問。お前さ、女抱けないのに、女と付き合ってどうすんの」
「ルーク?」
怒りよりも困惑が先に立つ。世間知らずで我儘で我慢することをしらぬ癇癪持ちで俺様な性格で。だが、少なくとも、こんな表情をするヤツじゃなかったはずだ。
何かあったのか、とガイは問いかける。
それを一笑すると、ルークは抵抗することを頭から抜け落としているガイの下肢に手を伸ばす。
当然なんの反応もしめしていない性器をそっと触れる。ガイにとっては予想だにしなかった事に、ビクっと身体が反応する。
「ルーク!お、お前、なっなっ、なにしてんだ!」
思わず吃ってしまう程に動揺をするガイに構わずに、指を絡ませてゆっくりと上下に扱き始める。
自由のきかぬ上半身を捩り、足を激しくばたつかせてガイは必死に抵抗する。
「ヤメッ…、ルーク、悪ふざっ……ンッ、け、は、アッ」
「悪ふざけで男のナニなんか触れるかよ」
思考を通さずにガイに返した自分の言葉で、ようやくルークは理解する。胸の奥にあった苦しいつかえはストンと落ちる。
だよな、悪ふざけじゃ触れるわけない。
衝動的な欲望の炎は消え去ったが、自覚した気持ちは新たな情動を呼び覚ます。


後編へ


あきゅろす。
無料HPエムペ!