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フリリク第二弾
ピオガイ 中編
「書類はどんどん積み上げられていく。俺の機嫌はどんどん急降下していく。俺のガイラルディアへの愛しさはどんどん募っていく。
ほら、これから導き出せる答えを言ってみろ」
バンと執務机を叩くピオニーに、ジェイドは肩をすくめて
「お休みはその積み上げられた書類に目を通してからにしてください。これ、改定案です」
と新たな書類の束を積み上げた。
「いやがらせだな」
「何がですか」
「俺にガイラルディアとられて悔しいんだろ」
言葉尻に「やーい」までつけられて、思わず刻まれた眉間の皺にジェイドは指をおしあてる。
思わず沸き起こった殺意に似た衝動と漏れそうになる毒の言葉を、深く息を吐く事でなんとかやりすごす。
「恋に浮かれるのは結構ですが、自重していただきたいですね」
「自重も何も」
執務机に突っ伏して、ピオニーは溜息をつく。
なんにもはじまってないぞ、とジェイド相手に言葉を続けるのは男のプライドにかかわる。
さてどうしたものかと言いたげなため息が再びジェイドの口から漏れる。
「あなたは本能レベルの域で人の心に聡いと思っていたのですが、例外もあるものですね」
「俺は獣か」
まあそんなところですよ、と相変わらず二人きりになると言葉を飾らず容赦がない。
「気づきませんか?ガイは」
そのジェイドの言葉を遮るように扉が叩かれ、メイドが「ガルディオス伯爵様です」と扉の向こうで告げる。
タイミングが良いのか悪いのか。ジェイドは「影がさしますね」と笑って見せる。
ピオニーが入室を促すと、青を基調とした衣装のガイが入室してくる。
「遅くなりました。着替えてブウサギ達を散歩に連れて参ります」
「大変ですね。会議は午前にとどまらず昼食を挟んでまた行われたのでしょう」
「まあ、色々な」
困ったようにガイは眉尻を下げて苦笑いする。
「では、私もそろそろ職務に戻ります、陛下、改定案必ず目を通してくださいね」
釘を刺すことも忘れずにジェイドはそのまま退室する。


それを見送って二人きりになると、ガイは「では、えーと、着替えのため少しばかり私室をお借りしますね」と奥の扉に向かおうとする。
「ガイラルディア」
手をひらひらと振って「こっちにこい」と呼ぶ。瞬時にガイに緊張が走ったようにみえる。
「何か御用でしょうか」
執務机の傍らにガイが立つと、ピオニーも椅子から腰をあげる。
「大丈夫か?会議でかなりしぼられたようにみえるが」
気遣わしげな言葉と共に、金糸に掌をのせて撫でてやると、ガイは「う、わっ!!」と叫ぶと同時に剣士の習い性なのか大きく後退する。
飛び退った先には献上された武器が床に転がっており、足を取られて「うわあああっっと」と見事な尻餅をつく事になる。
ピオニーは驚きで瞠目する。次の瞬間、はっと我に返り「お、おい、大丈夫か?」と駆け寄る。
ガイは四つん這いになりながら「す、すみません、無様な様子を晒しました」と益々散乱してしまった剣や斧などを片付け始める。
「それ…は」
そのままでいいぞ、と声をかけようとしてピオニーは気づく。俯いたガイの耳まで赤く染められている事に。
「どうした、ガイラルディア?」
ピオニーも床に蹲る形で、ずいっとガイに顔を寄せると、また「わっ」と驚き後退る。
沈黙が部屋に落ちる。
ピオニーはガイの反応に驚きと共に戸惑う。まるでこれは10代半ばの少女ではないか、と。
ガイは、ブウサギの世話を任された日にピオニーの部屋付きメイドの顔、名前をすべて覚え、朝に夕に挨拶する時は必ず女性の何かを褒めている様子をみて
「なかなかやるじゃないか」とピオニーは感心したものだ。
その後に女性恐怖症という体質を聞いて、ガイの末恐ろしさを感じたものだった。
「もしかして照れてんのか?」
いきなり核心をつく言葉を放ると、ガイは俯いていた顔をゆるゆるとあげてから、こくりと小さく頷く。
「え…は、はい。その、なれ、なくて」
その言葉にピオニーは内心首を傾げる。頭を撫でるような真似はしないまでも、背後から抱きつくなど日常茶飯事でやっていた。
その度に「いい加減、俺で遊ぶのはやめてください」とピシャリと撥ね付けられていた。
「今まではもっと凄いセクハラしていただろ」
その疑問を投げかけると
「あ、あの時、とは、状況が……。その、今までは特殊体質だったせいか、こういう関係に、その、この年までなった事がなくて。
そういう状況下において、どういう顔をしていいのか、その」
と言い淀みながら応える。
「要は、恥ずかしい、と」
「はい……みっともない、ですよね」
彼のクセである後ろ頭を掻きながら、困ったように笑う。まだ頬は紅潮したままで。
「……ここはこのままでいいから、着替えてこい。な?」
ピオニーがそう言うと、素直に「はい」と言って奥の扉に逃げていく。
いつものガイならばそう促されても、自分の失態の後始末をしないまま部屋をでていく事はないだろう。余程恥ずかしいらしい。
ピオニーは、ふむ、と顎に手を添えて少しばかり考える。
数分後、何か決意したように、メイドの控える部屋に続く扉を開ける

「三時の茶は不要だ。これから夕刻、いや夜まで人払いを。そしてお前たちも下がっていていい。
ブウサギの世話は今日は他の者に任せるように。ガルディオス家に伝令を送れ、伯爵は気分が優れぬようなので俺の私室で休ませる、と」

そう命を下すと、積み上げられた書類に目もくれずに奥の扉に向かう。その足取りは彼の心同様に軽い。
「おーい、ガイラルディア」
扉をあけながら名を呼ぶと、ちょうど見知った服のシャツのボタンを留めているところであった。
ちっ、着替えるのはやいな、と内心舌打ちをするピオニーに「あ、お部屋使われますか?」とガイは尋ねながらもボタンを手早く留めていく。
「ああ、使うぞ」
そう言うと、そのシャツのボタンを留めている腕を掴んでぐいっと引き寄せる。
「っつ!!!」
またぼっと音がしそうなほど、瞬間顔を赤く染めたガイを胸に抱くと
「お前が慣れるまで待つのも男の甲斐性かと考えたが、考えて見れば俺はそう気が長い方じゃないし。
それに、だ。俺にいい案がある」
その時にぞわりと悪寒がガイの背を這い上がってくる。予兆だ、間違いなく陛下はとんでもない事を言い出すぞ、とガイは身構える。
「いいか、まずお前はオレンジジュースを飲む。どう思う?」
「は?ああ、まあ、その、普通に美味しいと思うと思いますが」
思いがけないところからやってくる質問にガイは戸惑いながら応える。
「水に比べて甘みを感じるだろ」「はあ、まあ、そうですね」
「では次にショートケーキを食べる、もっと甘いよな」
「ええ、そうですね」
「では戻ってオレンジジュースを飲む。そうするとその前に感じていた甘みは感じずに酸味を主に感じるはずだ。それは舌がケーキの甘さに慣れてしまったからだ。
と、いう事でだ。それはガイラルディア、お前にもいえるはずだ。
今からもっともっと恥ずかしいことをすれば、これからは俺に、おはようからおやすみまでのキッスしても恥ずかしくもなんともなくなるはずだ」
あまりの言葉にガイは言葉を失う。目の前の皇帝の実年齢を脳裏に浮かびながら、口許が引きつるのを自覚する。
「はず、かしい事とは?」
聞かなければすむとわかっていながらも、一応問いかける。
ピオニーはにこっと笑ってみせると、ガイをそのままベッドに押し倒してのしかかる。
「決まってるだろ」
「――――っつ!!!」
驚愕に目を見張るガイの口を塞ぎながら、先ほど彼の留めたボタンを器用に片手ではずしていった。

後編


あきゅろす。
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