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フリリク第二弾
ヘタレ攻めルークに振り回されるガイ 中編
「やったー!!お風呂ー!お・ふ・ろ♪」
街の入ってすぐアニスはそう口にする。今回は山を越えるため移動手段は徒歩となり、野営が続いてしまったのだ。
アニス同様に女性陣も皆ほっとして、表情を緩ませている。
真っ先に宿屋に向かい、フロントでいつもの部屋割りで取ろうとすると、ルークが
「あ、あのさ。ワリィけど俺もジェイドのように一人部屋とれないかな」と言い出した。
え、と目を見張る皆の視線に、しどろもどろになりながらも
「ご、ごめん、余分にかかる金なら、俺、払うから、さ。ちょっと、…一人になりたいんだ」
それでも自分の提案を引っ込めようとはしなかった。
戸惑いの視線をルークに、それからガイへと移す。皆その瞳に「何かあったの?」と尋ねる色合いが濃く差している。
その様子を一人蚊帳の外でみていたジェイドが
「ならば、私とガイで相部屋を取りましょう。それならば構わないでしょう」
と提案する。大佐がそれで良いのなら、と皆どこか後ろ髪ひかれるようなままで部屋を取ることとなった。


ぼすん、と音を立て、うつ伏せの姿勢でベッドに身を投じる。
湯に浸かることで筋肉がほぐれて、一気に眠気が押し寄せてきた。
微睡もうとする意識は、扉の開く音で一気に引き上げられる。がばり、と音を立てて起き上がると、そこには本日の同室者が立っている。
ああ、そうか、そうだったな。と落胆する思考を払うように頭を振る。
ジェイドはその様子を黙って見据える。
「あなたは甘えるのが下手で、あちらは視野狭窄」
ジェイドの声に、ガイはゆるゆるとそちらに視線を向ける。
「でもあなたも彼に関しては思い込みが激しいので、ある意味これ以上になくお似合いといえますね」
なんの事だ、と問いかけたいが、いつも人の心に波紋を投げかけ、混ぜっ返すだけ混ぜっ返してから「年寄りの独り言ですよ」とさらりとかわす男だ。
経験上無意味な問いかけだとわかっているので、ガイは黙っておく。
「少し話してきてはいかがですか」
一体何を、とガイは胸の内だけで返す。
その時、思考に一閃が走る。
一体何を、だと。
背をむけられて一人寂寥の想いを抱えてこんだが、拒絶しているルークも間違いなく苦しんでいる。
ルークの苦悩を汲み取ろうとしなかった自分が腹立たしい。
いっぱいに抱え込んでどうしていいか判らないから、子どもの逃避と同じで、俺から逃げている。
苦しまなくていいし、悩まなくていい。忘れてしまえばいい。そう教えてやらなければならない、あの子どもに。
そう考えるとガイは居ても立ってもいられなくなる。
「ちょっと出てくるよ」
行き先を告げずにガイは立ち上がり扉に手をかける。
その背に何か声をかけようとジェイドは僅かに口を開きかけたが、言葉を紡がずにそのまま見送った。


扉をノックしようとすると、僅かに声が漏れて聞こえている。
この宿屋は壁も扉も薄いらしい。
来客ならば引き返した方がいいだろう、とガイが踵を返しかけた時に
「ガイさんとご主人様は喧嘩しているですの?」とチーグルの愛らしい声が耳に飛び込んできた。
途端、足が凍りついたように立ち止まる。
「ち、ちげえよ、喧嘩なんかしてねぇ」
「でもティアさん、心配してたですの。それにご主人様もずっと元気ないですの。ガイさんも、ずっと悲しそうですの」
「……ガイ、悲しそうだった…か?」
「はいですの!ご主人様が見てくれないからすごく寂しそうですの」
「違う。俺がガイを苦しめてんだよ。あーっ、俺ってどうしてこう」
「ご、ご主人様ーっ!」
ルークとミュウに会話を立ち聞きする恰好になってしまったガイは、その内容に思わず首を傾げる。
ルークが俺を?なんで?
「震えてたし、痛がってもいたし。なのに俺は止まらないしさ」
「ご主人様!もしかして、ガイさんを殴っちゃったですのっ!!」
「あー、まー、似たようなもんだ」
「喧嘩は駄目ですの。握手して、ごめんなさいして、仲直りするですの!」
「んな単純な問題かよ!ガキの喧嘩じゃあるまいし。………ガキのころのまんまなら良かったのかもな。
あの手が触れるだけで満足して幸せだったんだから。それ以上なんて望まなかったのに、な。
ガイは俺のこと呆れているだろうし、軽蔑もしているかもな」
「そんな事ないですの!」
「そうだ、何馬鹿なことを考えてるんだ、お前は」
突然会話に割って入った闖入者に、ルークは翠の瞳を大きく見開く。
「が、ガイッ!!」
咎める声色で名を呼ぶ。呼ばれたガイはつかつかと部屋に入ると、ミュウを抱きかかえ
「悪いな、ちょっと旦那のところに行ってくれるか」と頼む。
ミュウは目をキラキラさせて「はいですの!お二人、仲直りするですの!!」と言うと、ぴょんとガイに腕から下りて、とたとたと開いた扉に向かっていく。
「ありがとうな」とミュウに声をかけて、パタリと音をたてて扉を閉める。
二人きりになったところで、さてと、と呟いて、ガイはルークの隣に腰をおろす。


「何を馬鹿なことを言っている。俺がお前のことを軽蔑するわけないだろ」
考え違いもいいところだ、とルークの心情を知らされたガイは少しばかり腹立たしげであった。
「……で、でも………」
震える唇はその先の言葉は紡げずにいた。ルークは膝の上においた拳をぎゅっと固く握る。
すこしばかりの沈黙の後、か細い声で
「お前、……いっつも、いやがってたし」と漸くその先を口にした。
ルークの指す「いつも」があの行為の事だとわかって、ガイも僅かに言い淀む。
だが、ルークが誤解してまた自己嫌悪に陥らせる事態は何よりも避けたいので、吃りながら、小さく返す。
「べ、別に、いやがっ…て……なっ…」
「うっそだー!!」
気弱になってしまったガイとは逆に、ルークは威勢を取り戻してガイの言葉を遮る。
「いーっつもお前、こーんな感じでぎゅーっと目を瞑って開けようとしないし。口だってぎゅーっと噛み締めたまんまだし。
どう考えてもイヤイヤな態度じゃねーの」
ルークがガイの真似をして、ぎゅっと固く目を瞑ってみせ、奥歯をかみしめて、首を竦ませてみせる。
毎回その様子では確かに合意とは受け止められないだろう。その事実を突きつけられて、ガイは自責の念に駆られる。
「い、いや、でもお前の顔見れないだろ」
「なんで!ほーら、やっぱ俺のこと嫌がってんじゃん!」
「違う!!だって、ほ、ほら、なんか恥ずかしいだろ」
「何が。もしかして俺の裸とか?ちっせー頃から見慣れてるだろ」
「小さい頃とは違うだろ」
「はったり筋肉って言ったくせに」
「まだあの時の事、根に持ってんのか」
「持つに決まってんだろ。はったり筋肉の身体みて恥ずかしがるなよ」
「お前こそ、俺とやった事後悔しているから、あの時、やらないって逃げたんだろ」
ポンポンと飛び交う言葉の応酬で、ぽろっと本音がガイの口からこぼれ落ちた。
ガイの言葉を受けて、ルークは目を数度瞬かせる。それから
「はあああ?」と大声で怒鳴り返す。
「いーか、さっきも言ったようにな、お前エッチする時の態度が亀なんだよ、亀!!
首すくめて、身体がっちがっちに硬くて緊張してて、とっとと終われオーラだしまくって。
わかってんだよ。お前が、拒否、なんてしないの。優しいからさ。俺が傷つかないようにって。
俺がそれに甘えているだけ。だから、ああいうふうに、ひとりで耐えてさ、苦しそうにしてさ。
俺の我儘に、付き合って、こ、後悔してんのは…そっち…の方、だろ。 」
ルークの噛み付く口調が、急速に勢いを失い、最後は弱々しく変化していく。
震える声に、慌ててガイは頭を振り、言葉を紡ぐ。
「違う、違うんだ。後悔はしてない。するわけがない。ルークの事を好きなのに、そんな事あるわけないだろ」
「…っ、ま、まじで言ってんのか…よ」
「慰めるために告白なんてするか。それに、お前の事が好きじゃなければ、俺がお前に阿呆みたいに甘くても、あんな事出来るわけないだろ」
がばっと擬音がしそうな勢いで、ルークがガイの胸にしがみつく。小さく震える背にガイは腕を回して抱きしめる。
胸元でくぐもった声が漏れる。
「ほ、んとうに?」
再度、確かめる弱々しい問いかけに、回す腕に力を籠めてガイは囁く。
「ああ、ルークの事好きだよ」
ぎゅっとガイのシャツを握りしめて、「俺も」と小さくルークは呟いた。
そして二人は互いの身体を確かめ合うように、強く抱き締め合った。


ぐずっと鼻をすする音が耳に届く。それを隠すように照れた声で素っ気なくルークは言い放つ。
「あー、クソ恥ずかし!」
「俺の方が恥ずかしいだろ」
「ぜーったい俺の方が恥ずかしい。お前に立ち聞きされてんだぞ。いつから使用人じゃなくて家政婦になった」
「こっちはお前に愛の告白までしてるんだが」
「いいだろ、たまには。お前、肝心な事は何一つ言わないから」
己の今までの言動を振り返ると、これには反論を挟めそうにもない。仕方ないので、ガイは背に回した腕に力をこめて、話題をかえる。
「俺を何故あんなに避けたんだ」
「避けなきゃやりたくなるだろ。17歳の性欲なめんじゃねーよ」
話題をかえるための問いかけに、赤裸々に返されてガイは言葉に詰まる。いや、お前七歳児だろ、といつもの突っ込みをいれる事さえガイの頭から抜け落ちていた。
同じように回された手がまた熱くなったように感じる。
「じゃ、えーと…その、や、やるか?」
「……もっと色気のある誘い方しろよ。女相手には、こっちがドン引きする程キザなセリフをポンポン言うくせに」
それは誤解だと主張したいが、折角仲直りしていい雰囲気を壊すのも躊躇われるため、ガイは聞き流す事にした。
コホンと咳払いを一つしてから、
「じゃあ……えーと……もう一度やり直し、しよう」
しどろもどろになりながら、精一杯の誘い文句を口にすると、ルークは顔を顰めて
「おまえ、いつもの口のうまさどこにいった」と一刀両断する。
「ま、いいや。そういう所も可愛いっちゃー可愛いし」と笑ってガイの唇に自分のを重ねた。


後編


あきゅろす。
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