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フリリク第二弾
VG 一人H 浴室ラブラブH 中編
回想を断ち切るように、扉が叩かれる。音素時計に目を走らせると、30分以上時が経った事に気づく。結局朝食は殆ど手付かずのまま残すこととなった。
カタリと音を立てて食器を置くと、入室を促すように声をかける。向こうからの返事は返ってこないまま扉が開かれ朝食が下げられる。
ヴァンがきつく部下に言い含めているらしく、オラクルはガイと視線も会話も一度たりとも交わさずにいた。
ヴァンがいない時、ガイは扉に見張りとして立つ兵士に、食事を運んだり、部屋の掃除をする兵士に辛抱強く声をかけたが、まるでガイなど最初から存在しないようにオラクルは扱った。
地味に堪えるもんだな、と心中で零す。
ヴァンが訪れなければ、誰とも会話せずに一日を終える事となる。
チラリと再びカレンダーに目を走らせ、ざっと数えると誰とも口をきかぬ生活は、25日続いている事となる。
ガイは書棚に並べられている本を数冊とると、どっかりと椅子に腰をおろす。
ページを捲りながらも思考は散漫で、目の前の文字を追えずにいる。
こうして放置されているのは、俺に価値を見いだせなくなったという事だよな。
ベルケンドでルーク達の目の前でわざわざ「かねてからの約束」「復讐を誓い合った同志」と疑念を抱かせる事を言った後での拉致だ。
ルークは悲痛な思いで俺を信じているかもしれないが、他はおそらくは俺がヴァンの元に下ったと考えているだろう。
二ヶ月も戻らない事を考えれば、ルークはぎりぎりの所まで追い詰められている筈だ。
何故ヴァンはあそこまでルークを憎悪するのだろう。無駄を嫌う男だ。アッシュと対話しているようで、その実ルークに当て擦るような辛辣な罵倒など必要なかった筈だ。
あんな事を言えば妹のティアの態度が益々頑なになっていく事などわからぬ程に愚鈍ではなかろうに。
そういえばあの時ヴァンはルークを「捨て駒」だと切り捨てた。
お前にとって俺も捨て駒の一つなのかもしれないな。
役目の終わった俺に関心など一欠片も寄せることはないだろう。だからこそ、此処に立ち寄らないのだ。その事実に無性に寂しさを覚えている自分に苦く笑う。
心の何処かでヴァンを侮っていた。いや彼の中で自分は「特別」なのだと思い上がっていたのだ。
そんな愚かな慢心は、あの日に呆気無く踏みにじられた。
矜持をかなぐり捨てて泣いて懇願しようとも、眉一つ動かさず無表情に自分を見下ろすヴァンの姿に、漸くその事に気づかされたのだ。
浅はかな俺。
そして。
ガイは手にした分厚い本から、視線を書棚に移す。
そう大きくない書棚には、譜業や音機関関連の本のみが並べられている。
中途半端な優しさをみせるお前。
どっちがより愚かなんだろうな。
ガイは小さく息を漏らした。



窓から青白い月光が差し込む。
筋肉が落ちないように最低限の鍛錬は怠らないガイであったが、それでも今までの運動量とは格段の差がある。
そのせいで眠気がなかなか訪れることはない。
ゴロリと寝返りを打つ。
ベッドは大人二人が並んで横になってもまだ余裕がある程の広さだ。
だが、この部屋にガイが閉じ込められてから今日まで、いつも一人で眠りについた。
ベッドの上で身体を好き勝手に弄ぶ事はしても共に眠る相手ではないという、ヴァンの意思表示なのだとガイは受け止めている。
その事を考えると、胸の奥から寂寥の念が湧いてくる。
人に価値がないと打ち捨てられるのはこんなにも寂しい事なのかと、ガイは薄く自嘲する。
キリリと胸の奥の痛みにガイは僅かに眉をしかめて、部屋に差し込む月光に視線を送る。
夜は苦手だな、余計な事ばかり考えてしまう。
寂しさを覚えるのは、今の俺が置かれている境遇のせいかのか。それとも見放した相手が。
巡っていた思考がある人物の像を結ぶと、それを断ち切るように掛布を頭までかぶる。
何も考えずに眠りに就きたい。
思考の逃避をガイは願い、一番手軽な方法を選択する。
寝衣の上から下腹部に触れる。
軽く触れるだけでも、すぐさまそこは熱をもち質量を増す。
ゆるりと指を絡めて上下に扱くと、ビクビクと脈打つ感触が掌にあたる。
ずっと解放されていなかったそこは、先端から期待の透明の雫を溢れさせる。
クチュリと淫猥な音を立て始めると、益々昂ぶっていく。
裏筋を指の腹で押しながら扱くが、ビリリと快楽が背を走るのに、達せないでいる。
「はっ、アアッ、ンンッ、ハアッ、………ンッ」
もどかしげに身悶える。熱は放出をまつばかりなのに、何かが足りないでいる。
快楽に従順になってしまったガイは、ヌルリとした先走り液を指に絡める。
枕に顔を埋め、腰を高く掲げる。背に腕をまわすと奥の窄まりを撫でる。待ちかねていたように、ひくつくそこにゆっくりと指の先を入れると、全身に甘い痺れが駆け巡る。
「はあっ、アアッ、…イ、ィイッ」
気持ちイイ。
だが、すぐさま物足りなさを感じる。もっと、違う熱く硬いものが欲しい。
指をまげて、快楽を絞りとる箇所を掠め、腰が震えるが、それでももどかしさだけが募っていく。
隙間なく埋め込まれたもので、ぐいぐいとおされ、擦り上げられると、瞼の裏に閃光がはしる。
節くれだった指で乳首をきゅうっと摘まれ、指の腹で擦られると、嬌声が漏れる。
熱く荒い息がかかり、食われるように舌を絡められると、ぞくりと背が震える。
ヴァンから与えられる快楽を余すこと無く受け止め、それだけを追うけものになる。
「……ヴァ、ンッ、あっ、…ヴァン、ヴぁアアアッ」
ここにいない男の名を呼べば、快楽は一層高まってくる。
欲しい、欲しい、こんな指ではなく、熱く太いもので奥まで掻き回して欲しい。ヴァンが、欲しい。
きつく瞑った瞼の裏に浮かぶ男の名を呼ぶと、腰を駆け抜ける快楽に嬌声をあげて掌で白濁液を受け止める。

はあ、はあ、と息を整えると、ドロリと濡れた掌に罪悪感がガイを襲う。
何やってんだ、俺。
汗でべたつく身体を流すために、浴室に足を向ける。
浴槽に湯をはりながら、シャワーで身体を洗い流す。
目を背けて気づかぬ振りしてきた。単なる寂しさからくる感情だと思っていた、いや、そう思いたかった。
こんな事になりながらも、あいつを憎めずにいる理由など知ってしまえば戻れなくなる。
そして分かったところでどうなるというのだ。
ざぶり、と音を立てて浴槽に身を沈める。ゆるゆると暖まっていく身体に、ガイの瞼は落ちていく。


***************



貴方に永久の忠誠を。
剣を掲げ、小さな柔らかな手の甲に口をつけると、蒼い大きな瞳をより一層見開く。瞬きを忘れたようにじっと私を見つめると、ぱあっと顔を綻ばせる。
「ほんとう?ほんとうに?」
抑えきれない喜びに表情を輝かせながら、弾んだ声で私に何度も問いかける。
ええ、あなたに、あなただけに、とわの――――

形あるものは、時の波に呑まれ、少しずつ朽ちていく。
それは人が人に寄せる想いも、例外ではない。
定まり変わらぬ想いなど、何処にもありはしないのだ。だが、人は夢をみる。永久に変わらぬ愛を軽々しく口にする。


私に向ける感情に変化の兆しを、本人が自覚するより先に感じ取っていた。
後ろめたさが多く混じった、何か隠すように取り繕いながら、無理に復讐者の仮面を被る。笑顔を向ける事は稀となった。
失われた故郷で見せたあの屈託の無い笑いを向ける先は、もう私ではないのだ。
復讐する相手に見せるその笑顔は、相手に信頼させ取り込むためだけではない事などとうに分かっていた。
それでも何処かで、共に復讐を誓ったあの強い瞳がまだあると信じていたのだ。いや、そう思いたかったのだ。
私の手を振り払い、私が創りだした模造品の手をとる未来など、思い描きたくもなかった。
呼び出しに応じた彼が完膚無きまでの拒絶を見せた時、理性が灼き切れた。
彼を昏倒させると、以前より隠れ家として使っていた屋敷へと運びこむ。
目覚めた彼に殊更冷酷に振舞った。私の手をとらぬ恨みや苛立ちもあった。だが、それ以上に胸を占めたのは、恐怖だった。
彼からの拒絶がこんなにも苦しく痛いものだとは考えもしなかった。
喪失は痛いものだと、自らの力で故郷を滅ぼした時に誰よりもわかっていたはずなのに。
彼に触れたいという欲望を暴虐へと形を変え、彼が私を拒絶する「理由」を自ら作り、恐怖に背を向ける。


拒絶の恐怖に、いっそ滑稽な程に怯える獣

後編


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