フリリク第二弾 JG(モブ×G要素含む) 前編 後ろ手に拘束されたガイ・セシルは、自分を取り囲む男達に素早く目を走らせ、リーダーの男を見極めようとする。 交渉の場にリーダーを引きずり出すために。この圧倒的不利な状況を少しでも打破すべく、ガイは頭の中で考え巡らせる。 毛に覆われた丸太のような太い腕を組んで、値踏みする目で自分をみつづけている男にアタリをつけてみる。 その男だけを見据えて「残念ながら俺はしがない使用人でね。金なんてひっくり返しても出てきやしないぜ」と、冷静に、諭すような口調で話しかける。 常とかわらぬ軽快で、人好きのする笑顔を向けながらも、その蒼い瞳は男達から奪われた剣のように、冷たく鋭い。 「えらく身分の高そうな御一行だったからな。使用人がいても確かにおかしかねえな」 その言葉に、やはり目をつけられていたのか、と胸の内でやれやれと溜息をつく。 自分たちのパーティは衆目を集めやすい事は自覚していた。ダアト軍部所属と一目でわかる女性たちと共に歩くのはマルクト軍服を身にまとう男。 立ち居振る舞いに気品溢れる女性に、一般ではなかなか目にする事のない焔のように燃え立つ赤い髪の青年。 軍人が連れ立っている事で、単なる観光客でない事は瞭然としている。 治安があまりよろしくないとされるこの街に足を踏み入れた時から、方々から値踏みするような無遠慮な視線に痛いほどにうけていた。 彼らが狙いをつけたのが、パーティの最年少であるアニスでなくて良かったとガイはそっと安堵する。 年齢の割に聡く豪快で度胸もある少女だが、それでも女の子は女の子だ。図体はばかデカく、タチの悪そうな男どもに拘束され、とり囲まれるような事態になど陥らせたくはない。 「今、俺を開放してくれれば、この裏通りを出た瞬間何もかも忘れる。あんたらも余計な事して、アシがつくよりはいいだろ」 数人の男達がガイの言葉に顔を見合わせる。確かに金がとれないからと殺すのは簡単だが、この男と連れ立っていた連中は身につけた衣服からすると、かなりの大物なのは違いない。 使用人を捨てても構わぬ冷淡な連中ならばいいが、親しげな様子からすると、犯人探しを街に駐在する騎士に強要するだろう。そうすればあっという間に縄にかかってしまう。 なあ、どうするよ、と視線で会話をしあう男達の中で、リーダーの男は変わらず腕を組んだままガイを見据えている。 「兄ちゃんは、肝が据わってるな。ツラも上等だが、頭ん中身も上等のようだ。 まあ、それが賢い選択だろうな」 その言葉に、迷いを見せていた男達の空気は緩んだ。リーダーの決断だ。彼らは従うだけだ。 あっさり開放するのだろう、そう皆は考えた。だが、ガイは緊張を緩めなかった。 自分を見下ろすリーダーの瞳は、最初の対峙の時から宿していた欲が一層強くなったからだ。 「なあ、だけどあんたが口を割らないって保証はない。俺らの人相はその賢い頭の中に叩き込まれてる。だろ?」 「こう見えても忘れっぽい方でね。さっき食べた朝食の内容も忘れたくらいだ」 リーダーの大男はゆっくりと腰をおろして、ガイと目線を合わせる。 「そうかい、そうかい。なら安心だ、って言える程俺は甘くねえんだよ。忘れてもらえるようにするのが俺のやり方だ」 太い指でガイの顎を掴んで顔をあげさせる。 「頭でも一発殴るのかい」 「もっと楽しくて気持ちのいい事さ。幸いアンタは俺の好みだ」 「それは光栄、と言っていいのかな。俺は見てわかるように男だけど?」 冷静に受け答えしながらも、ガイは背に冷たいものが流れるのを感じる。 最初に対峙した時から、男の目には情欲が宿っているのをガイは知っていた。後ろ手に拘束され、武器は剥ぎ取られた状況では、太刀打ちできない事も理解している。 おまけに余程切羽詰っているのか、男の下腹部を一瞥すると、そこにはズボンを突き破らんばかりの昂りをみせている。 「かまやしねえよ。あんたみたいな綺麗どころとやれる機会はないからな」 興奮した熱い息が顔にかかり、ガイは眉をわずかに寄せる。 「おい、誰か、油持って来い!」 リーダーの命令に男達は一斉に動く。一人は言われた通りに油を取りに走りだし、一人は手早くガイのシャツのボタンを外していき、もう一人は下着ごとタイツを引き下ろし、一人は剥き出しになった下半身を抑えこむ。 彼らの普段の悪行が窺い知れる程、淀みなく事を進める。 「おいおい、兄ちゃんもったいないな。あまり使ってないのか。兄ちゃんなら黙っても女が群がってくるだろ」 リーダーの男は前を寛がせながら、ガイの晒された性器を握りこむ。 仲間が油を持ってくる間、ガイの熱を昂ぶらせて乱れる様を見てやろうと、少年のような淡い色合いで、経験がない事を示しているソレをゆっくりと擦る。 ガイはポツリと零す。 「遅いな」 その言葉がリーダーの耳に入った時、欠けた歯をみせながらニタリと笑う。 なんだ、こいつもその気になってんのか。あいつ、早く油をもってこねえか。こいつぶち込まれたがって…… リーダーの下卑た思考を止めたのは、動物的本能であった。何か、何かがくる。身体中の毛がチリチリと逆立つ。 弾かれるように路地裏の狭い通路の先に顔を向ける。 まだ日は明るいのに、密集した高い建物のせいで、ここは薄暗い。だが、通りの先は光に包まれている。 その白い世界から数歩、この仄暗い通路に足を踏み入れて長身の男が佇んでいる。何をするでもなく、ただ立っている。 それだけなのに、リーダーはその男に圧倒的な恐怖を感じていた。男の口は動いている。何かを唱えるように。唱える、何を。それは、 「……いの名の元に具現せよ」 譜術! ガイから飛び退いて逃げようとするリーダーと、身に迫った危機を感じず呑気に半裸状態にされたガイを眺めていた男達の周囲を、光の旋律が捕らえる。 見たこともない譜術に戸惑う男達の耳に 「ミスティック・ケージ」 の声が届いた時、彼らの世界は白一色に染められた。 後編へ |