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小話
黄昏 その2
一緒に暮らしましょう



二人で暮すにあたって、小さな決まりごとをつくった。

許可なく外にでない事。
不審な人物を見かけたら報告すること。
そして、「ガイ」と呼ばせること。


*******

ローレライの宝珠を身に宿していたルークに触れた事で、ヴァンの中のローレライの力は増幅し
一時抑えるのにかなりの労力を要した。
ようやく抑えた時、疲労困憊したヴァンは意識を失った。
リグレット、ラルゴ、シンクの見守る中目覚めたヴァンの精神は11歳に逆行していた。
驚愕する中、一番先に冷静さを取り戻したシンクとの会話の最中、ヴァンは再び倒れこんだ。
「閣下!」
駆け寄ったリグレットが身体を支えようとする。その時。
身体は金色に輝き、意識を失ったヴァンの口だけが動く。
「ユリアの血縁者よ。私の力を行使するならば、野望を抱くお前の記憶と共に私は眠りにつこう」
「お前は誰だ」
「私は、ローレライと呼ばれるもの」
「閣下に何をした!!」
「言ったはずだ。野望をいだいた記憶を封じた」
「何それ。僕達に計画を諦めろと?ヴァンの中にいるあんたを解き放てと?」
「そうだ。私は還りたいのだ」
「……ひとまず考えさせてもらうよ。それまでこっちの計画も止めておく。だから一月待ってもらおう」
「…………、よかろう。だが、それまで記憶は封じたままだ」
「貴様、閣下を」「いいよ」
リグレットを遮り、シンクは返事をする。眦を決してリグレットはシンクを見る。
「俺も賛成だ、リグレット」
ラルゴの言葉に、リグレットは俯き、そして了承した。
すうっとヴァンを纏う光が消え、リグレットの腕の中の身体がずしっと重くなる。
ラルゴがヴァンを肩に抱え、ベッドへと運び、三人はヴァンが意識を取り戻す前に今後のことを話し合った。
レプリカ大地の作成を一先ず停止し、暴走するモースに監視をつけ、ルーク達が倒すのを待つ。
今のヴァンの状態ではエルドラントに身を隠すのは得策ではない。どこか人目につかない場所を手配する。
そして一番の問題がヴァンであった。
警戒心を強く抱くヴァンがおとなしくそれに従うのか、ということだ。
11歳ともなれば言い含める事すら難しい。肉親であるティアすら生まれていない年頃だ。
その当時のヴァンを知る人物はただ一人。
リグレットは最後まで強硬に反対をした。
その最中、もぞっとベッドの中で動く気配がし、話し合いは中断となった。
シンクの独断で話をすすめ、リグレットは不承不承というようにガイを呼び出す事となった。


「不満か、リグレット」
ラルゴの言葉にリグレットは首を振る。
「違う、怖いのだ。閣下が……」
変わってしまいそうで、とは言えずにいた。だがそれは伝わっているのだろう。
ラルゴは聞き返さずに、一度だけ振り返った。
隠遁生活するために誰かが建て放置されていた家だ。仄かな明かりがが、生活をする明かりが灯っている。
その明かりが、溶かしていくのだろう。
それを嘆くべきなのか、悲しむべきなのか、怒るべきなのか、そして喜ぶべきなのか。
ラルゴにはまだわからずにいた。


************


鏡の前にたち、ヴァンはふうっと深い息をつく。
常に視界に入ってくる、この大きく節ばって無骨な手は慣れてきた。
父上の手にも似ている。これは剣を振るう手だ。鍛錬を怠らなかった手だ。
だからこそヴァンは、初めこそ戸惑っていたこの大きな手を、気に入るようになっていた。
声も、しゃべりだすと、ぎょっとして口を噤むそうになるのを、ガイが笑って
「渋みのあるいい声じゃないか。俺は好きだな」と言ってくれたので、だんだん好きになってきた。
だが、この顔には慣れない。
だからこそのため息だった。
鏡の前で立ち竦むヴァンの姿にガイは気づいて声をかける。
「どうした。鏡の前でしょんぼりして」
「……この顔、怖くないですか?」
眉尻を下げて不安げに問いかけるヴァンに、吹き出しそうになるのを必死で抑える。
「ブッ……ンッ、ゴホッ」
誤魔化すために一つ、咳払いすると、長い使用人生活で身についた笑顔を向ける。
「んー、怖いというか、男らしい精悍な顔つきだと思うぞ」
「でも……」
言いよどむヴァンに、ガイは殊更陽気な口調で元気づけようとする。
「太くて男らしい眉。切れ長の瞳。男らしい髭」
男らしいのオンパレードだな、と心の中で自分ツッコミをいれるガイの耳にヴァンの弱々しい声が届く。
「でも……ガイラルディア様はそのお髭が嫌いなんです。怖いっていって。
だから私の今の姿をみたら、ガイラルディア様怖がられるんだろうなあって」
「……ヴァン」
鏡をみていられずにヴァンはうつむいたので、その時のガイの表情は知らないままであった。
虚を衝かれたように一瞬呆けた表情を浮かべ、だが、次には苦しそうに眉を寄せる。
俯いたヴァンは髪に触れられている感覚に、顔をあげようとする。だが、ガイの声がそれを制止する。
「ちょっと動くなよ。きっつく結んでんなあ……っ。よし、できた」
さらりと髪が頬を撫で、頭が軽くなった気がする。
いつの間にかブラシを手にしたガイが、ゆっくりと櫛を入れる。
「髪結んでいるからこわく見えるのかもな。ほら、下ろしたらそうでもないだろ」
「……え、あ、はい」
確かに鏡の前にある自分の姿は、先程と比べると随分若く見える。
髪に櫛をいれながら、ガイはポツリと「有難うな」と言葉を漏らす。
「どうしてガイがお礼を言うんですか?」
「お前はいつも、ガイラルディアの事を考えてくれるんだなって。……従兄として嬉しいよ」
「そんな事ないです。ガイラルディア様をお守りするのが私の仕事ですから」
人に髪を解かしてもらうなどどれくらいぶりだろう、とヴァンは思う。
騎士の家系所以、世話をするメイドの手を煩わせる事無く一人でなんでもこなしてきた。
優しくゆっくりと髪にブラシをあてる感触が心地よくて「もういいです」という言葉が出てこないでいる。
「ありがとう」
再びガイの口から感謝の言葉がこぼれた。


その3













あきゅろす。
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