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小話
現パロルクガイ その2
預言は覆った

それは本当に?

だって、俺の聖なる焔の光は、戻ってくることはなかった

夜空を見あげれば、星の光を消し、一際強く輝く月光が譜石帯を照らしている

月光が消した星の光は

聖なる焔の光はどこにいった?



******

ふと、気づけばそこは草原だった。
いや、穏やかな潮騒の音が耳に届いている。頬をなでる風は潮の香りも運んでいる。
渓谷なのだろうか。煌々と照らす月光だけでは、明かりに乏しい。
振り返ってみるが、街灯の一つすらありゃしない。
こりゃ帰るのが大変だな、とため息をひとつ零し、再び前を見る。
すると、目の前の岩に人が座っている。
さっきまで誰もいなかったのに。さあっと渓谷から吹く風が赤く長髪を靡かせている。
その後姿には見覚えがある。
白い上着がはためいている。
なんだ、お前。なんて格好してんだよ
一歩、一歩、近づいていく。
わっ、と背後から脅かしてやろうか、と悪戯心が疼き始める。
だが、見透かしたように、くるりと振り返る。
「ばーか、ガイの考えている事なんかお見通しだ」
やっぱり、ルークだ。どうした、その格好。
ぷっと口元に手を当てて小さく吹き出す。
あれ、俺、グローブなんてしてんだ。
よくみればブーツに……え、これ、スパッツ?タイツ?な、なんでバレエダンサーみたいな格好してんだよ!
自分の格好に目を丸くする俺をみて、今度はあいつがおかしそうに笑っている。
「ガイ。良かったなあ、タイツから解放されて」






「おはよう、ガイ」
靴箱の前で、ルークと鉢合わせる。
朝から嬉しそうに、弾んだ声で挨拶してくるルークをみて、ガイも顔をほころばせる。
「おはよう、ルーク。昨日、お前の夢みたんだ」
「えっ」
弾かれたようにガイを見上げるルークに、ガイは夢を思い出したように、くくっと笑いを零す。
「それがな、お前も俺も変なコスプレしてんだよ。あ、そういや髪がまだ長かったな」
「コスプレって。メイド服とかセーラー服とか?」
「おいおい、そりゃ女装だろ。そうじゃなくって、白い上着を着てた。ジャケットでもないし、コートってわけでもない。
なんか見たことない服で、あ、腹見せしてた。夢のお前の腹筋、結構鍛えられてたぜ」
「夢じゃねえよ。今の俺だって腹筋すげえぞ。見るか?」
そう言ってカバンを床に放り、シャツの裾をアンダーと共に持ち上げようとした時、背後から怒鳴り声がかかる。
「この屑が!!!こんな場所で何やってんだ!」
眉を吊り上げるアッシュの怒号に負けじとルークも声を張り上げる。
「ガイに俺の自慢の腹筋みせようとしてんのに、邪魔すんな!」
「てめえ、朝から目が腐るようなもんガイに見せてんじゃねえよ」
「はっ、テメーの腹筋がぶよぶよだからって嫉妬すんなよ」
「んだと!見てみるか!」
「おう!見せてみろ」
まさに子どもの喧嘩だ。やれやれとガイはため息をつく。
「おい、二人ともいい加減にしろよ」「ふたりとも、いい加減になさいまし」
諌める言葉が重なった。
ガイはひょいとルークの横から顔をだすと、アッシュの背から、小さくナタリアが顔をだす。視線があうと二人で苦笑いを浮かべた。

ルークと仲良くなると、彼の双子のアッシュ、二人の親戚でかつ幼馴染のナタリアとも、自然と顔馴染みとなっていった。
寄ると触ると喧嘩が勃発する双子を諌める役は、ガイとナタリアが担っている。
ナタリアがいるならアッシュも引くだろうとガイは考え、「じゃ先に教室行くからな」と背を向けさっさと歩き出す。
「待てよ、ガイ!!置いていくなって!!……あ、やっぱ先に行ってて」
「了解」
片手をあげて、そのまま階段をあがる。
慌てて追いかけてくると思ったのにな、と少し残念に思っている自分に苦笑いする。
ロッカーに荷物を入れていると、バタバタと音をたてて教室にルークが飛び込んでくる。
「ガイ!写真撮ろう!」
「はあ?」
「ナタリアから借りた」
手にしているのは可愛らしいメタリックピンクのデジカメだった。
「ほら、撮るからこっちよって!」
「いや、なんで写真?」
「いーから!ほら、カメラの方むいて。とびきりの笑顔で!」
顔をくっつけて、ルークは腕を伸ばす。
「はい、ピース!」
小さなフラッシュがたかれる。カメラの背面をみて「うん、オッケー。良い感じ」とルークは満足そうだ。

「帰りに現像しようぜ」
「おい、ルーク。なんで写真を撮るんだよ」
「ガイの夢に俺が出てきたんだろ。じゃ今夜も俺が出てくるようにっておまじない」
にへらっと笑うルークに、ガイは言葉を失う。
「写真を枕のしたにおけば、その人の夢が見れるっておまじないがあるんだよ」
高校生男子が男友達にいうセリフじゃないぞ、と言いたいが、微笑ましいと思う気持ちが勝ってしまっている。
「じゃ自撮りすればよかっただろ。俺が入る必要はあったか?」
「あるよ。俺がお前の夢に出てくるなら、お前もいなきゃ駄目だからな」
よくわからない理屈に小首を傾げるが、ルークは気にした様子もない。
「現像したついでに、どっか寄って帰ろうぜ!」
うきうきと効果音をつけたくなる様子のルークをみて、ガイもつられて口元を緩ませる。



満面の笑顔のルークと、ぎこちない笑みのガイ。二人が顔をよせた写真が二枚ある。
ルーク曰く、枕の下に置く用と飾る用らしい。
本当におかしな奴だよな、とひとりごちて、約束通りに一枚を枕の下にしのばせる。
さて、おまじないの効能はどんなものかねえ、と思いながら、明かりを落とした。


*******


あのこがいない世界に、どれほどの価値があるのだろう

あのこが命を引き換えにした世界は、何ものにも代えがたい

矛盾した想いが、混ざり合い、胸の奥でどろりと澱んでいく





またあの場所だ
今日も月光が冴えて照らしている。
「なあ、月が綺麗だな」
今日もあの岩の上にルークが座っている。だが、昨日と違い髪が短い。
言われるがままに空を仰ぐと、夜空にかかった月は大きく、そして綺麗だった。
「譜石帯もちゃんと見えるな」
なんだ、そのフセキタイって
目を凝らせば、夜空に大小様々な岩がいくつも浮かんでいる。
おいおい、マジかよ。あんなのが空にあるなんて。政府は何してんだ。落っこちてきたらどうするつもりだよ。
「フセキタイは、昔、星の一生をよんだひとが削った岩だよ。ほら、お前、手にもっているじゃないか」
言われて手をみれば何か握っている。ゆっくりひらけば、なんの変哲もない石に、見たことのない造形の文字が刻まれている。
あいつが、あいつの家族が守っていた石。沈んでしまった島とともに堕ちた石。滅びが記された石。
「滅びは回避された。だからもう石はいらない。もう、人は石を必要としない」
ルークの言葉で、手の中の石がすっと消える。
え、と思い夜空を見あげれば、そこに岩が全てなくなっていた。
「定められた未来はもうないんだ」
「でも、お前は帰って来なかった。聖なる焔の光はND2018より時を進めなかったじゃないか」
言葉が口をついて出た。自分の声なのに、自分の声じゃなかった。今より少し大人びた声で、子どものようにルークを詰る。
ルークの瞳に諦観と悲しみが色濃く滲む。それでも無理に笑みをつくる。痛々しさに胸が締め付けられる。自分がそうさせているのに。
「うん。ごめんな」
石を失った自分の手がルークに向かって伸ばされる。
ルークに、ルークの一部にでもいいから触れるために。
だが、それは空を切る。すぐそばにいるのに、まるで映写機で映された映像のように、つかむことができない。
「ごめんな、ガイ」




「なあ、なあ。夢みた?」
わくわくと好奇心丸出しで聞いてくるルークの目を直視出来ない
「え、あ、うーん。見たことは見たけど…」
夢のなかのルークは「セイナルホムラノヒカリ」って名前なんだろうか。
夢では「かえってこなかった」「時をすすめなかった」からすればどうやら早逝したようだ。
そんな内容を聞かされても反応に困るだろうし、とガイは考える。
「お前は出て来なかったよ」
そう告げると、そっか、と残念そうに消沈する。
ちくりと、心臓を針でついたような痛みが走る。
せめてもう少し違う夢だったらなあ。なんであんな夢みたんだろうか。
あんなファンタジーとSFがごちゃ混ぜになったような夢を。
「あ、そうだ。今日さ、暇?」
「ああ。暇だな」
「じゃ明日は土曜日だしさ。帰りにガイの家に寄っていい?」
「構わないけど、どうした。俺ん家にはゲームないから面白くねえ、じゃなかったのか」
「あー、なあ、あのさ、数学教えて欲しいんだ」
このとーり、と手を合わせるルークに、ガイは笑う
「なんだそんな事か。構わないぜ。教えるのうまくないとは思うけど」
「助かったー。ついでに物理も」
「なんだ、どんどん増えるな。『あ、忘れてた、科学も』とか言い出すなよ」
う、と言葉に詰まるルークに、あたったのかとガイはがっくり肩を落とした。



折りたたみの小さなテーブルの上に教科書を広げて、ルークは唸っている。
「あー、だめだ。数学みたら頭がパンクする」
「おいおい、俺達のクラスは理系だぞ。今からそんな事でどうするんだ」
「物理とかなんだよ、意味わかんねーよ」
「お前なあ、数学見たら頭パンクする、物理意味わかんねー、科学大嫌い。なんで理系を選択したんだ」
「仕方ねえだろ」
「何が仕方ないんだ」
「…………りたかった…だ」
すっと視線を外し、ぼそぼそと口籠る。

耳を寄せ「え?」と、ガイが聞き返せば、きっと眦を決するとヤケクソ気味でルークは叫ぶ。
「だからっ、俺は、ガイと一緒……、のクラスになりたかったんだよ!」
あまりに予想外の言葉に、ガイは瞠目する。
「入学式でせっかくガイを見つけたのに、でもクラスは端と端で合同授業にも引っかからねえし。
おまけになんでかお前、俺のこと冷たい目で見てるし。
体育祭で紅白どっちでもいいから同じチームなればいいと思ってたら、縦割りだし。文化祭、お前のクラスの前でウロウロしても、全然すれ違わないし!
運命が悉く邪魔すんだから、すんげえ苦手でも理系選べばお前と同じクラスになる確率は格段にあがるんだから、そりゃ当然選ぶだろ!!」
「ちょ、ちょっとまった。声おっきい」
興奮したルークの勢いに驚いて口を挟めずにいたが、隣の部屋から壁をドンと殴る音がして、慌ててガイはしーっと口の前に指を立てる。
ルークも、我に返ったのか、しまったという顔をして俯く。
しん、と沈黙が部屋に落ちる。
「え、えーと、な。お前なんでそんなに俺と同じクラスになりたいんだよ」
「だって、そりゃ………………言えない」
「なんで。気になるだろ」
「言わない。帰る!」
テーブルの上の教科書をカバンに押し込むと、ルークは立ち上がる。
「おい、ルーク。待てよ!」
肩を掴もうと伸ばした手が、ふと昨夜の夢と重なる。

つかもうとして、つかめない
なぜ
だってあいつはもう―――

バタンと乱暴に玄関の扉の閉まる音で、ガイははっと気づく。
「ルーク?」
小さな三和土にルークの靴はない。先ほどの音は、ルークが出ていった音だ。
そんな単純な事すら、現状を理解するのに時間がかかる。
ルークを追う気力もわかず、ガイはそのままベッドに寝転がる。
枕の下に手をさしのばし、少しよれた写真を取り出す。
満面の笑顔のルーク。
まだ知り合って二ヶ月なのに、それが随分と見慣れたものになってきている。
でも時々懐かしさと寂しさが混じった瞳で、儚げな笑みをみせる事がある。
また、つきりと胸が小さく痛む。
「もう変な夢みるのはおしまいな」
自分に言い聞かせるように、ガイはひとりごちると、起き上がって写真を机の上に置いた。
どこかで引っかかりを覚えながらも、それに知らないふりをきめこんだ。



*********


さあっと風がふく。とても静かだった。
岩の上にはもう誰もいない。
月光をあびて、白く輝く花が咲き誇っていた。
とても幻想的な夜
泣きたい程に美しくて悲しい。
事実、俺は泣いているようだ。
視界が水の膜を張って揺らめいている。
足が力をなくし、膝をつく。
「…あっ……」
なき叫ぶ声は凍りついたようにはりつき、唇はわななくだけだった。
白い花弁が舞い上がる。
よく見れば、遠くに何かがある。
海。海に半身を沈め、傾いたあれは……

墓標

あそこに眠るのは、信念を貫き通した男、それに従った女、空虚だと自嘲した少年、そして聖なる焔の……
ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう
だって、あいつは帰ってくるって言ったんだ
そう約束したんだ
ルークは…、そう、ルーク!ルークは、帰ってくるって。絶対帰ってくるって。
だが、月光の下戻ってきたのは

叫ぶ。あらん限りの声で叫ぶ
彼の、ガイの慟哭は誰にも届かない
それでも叫ぶ
名前を
愛した人の名前を



********



コンコンと扉を叩く音に続き、この家の執事が中のルークに声をかける。
「お坊ちゃま。このような時間に友人と名乗られる方がお見えですが、どうなさいますか」
「誰だよ」
昨日の失態で朝方まで眠れなかったルークは、こんな朝早くに訪ねてきた人物に怒りをむける。
「なんでも高校でのお友達で、ガイ様と」
「通して!今、すぐ!」
慌ててベッドから飛び起きたルークに、扉の向こうで執事が躊躇いがちに言葉を重ねる。
「ですが、何やらご様子が」
「いいから!!早く」
パジャマを脱ぎながら、手短に命令する。会ったらまず昨日の事を謝らないと。
変な事言ってごめん。許してほしいって。
だって、俺は、ガイと一緒にいたい。ずっといたい。せっかく手に入れたこの機会を手放したくない
友達でいいんだ。それでいいから一緒にいたい。そばにいたい、一緒に笑いあいたい。
一緒に時を重ねていきたい。だから。

自室に備え付けられている浴室で顔を洗い終えた時、メイドに促されて部屋に誰かが入ってくる音が入ってくる。
「ガイ、昨日は……」
扉を開けると、続く言葉はびっくりして声にならなかった。
甘い精悍な顔立ちは、血の気をなくしてまるで病人のようだ。
「ガイ、どうした。お前、風邪でもひいた?」
慌てて駆け寄ると、ぎゅっと抱きしめられる。突然の抱擁にびっくりして「うおっ」と変な声があがる。
「ルーク、ルーク……」
しぼりだすようなガイの声は震えている。
「ガ…イ?」
「ルーク。気づくのが遅くなってごめんな」
「ガイ?…………」


「おかえり、ルーク」





おまけ


あきゅろす。
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