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小話
現パロルクガイ おまけ

本のページを捲りながら、穏やかな休日の午後を過ごすアッシュの耳に、携帯の着信音が入る。
送信者をみて、チッと盛大に舌打ちをする。
「なんの用だ!」
「アッシュ!今から俺の部屋に来て!」
「はあ?嫌なこった」
「頼む!ガイも待ってるから!」
返事を待たずに電話は一方的に切られる。
「おっ、おい!……ったく」
携帯を置いて、本に栞を挟む。
口は悪いが律儀な性格のアッシュは、一方的なルークの言葉を無下にも出来ずにカウチから立ち上がる。



そういやガイが来ているんだったな。
夏休み前の三連休という事もあり、ガイは今日うちに泊まる事はアッシュも聞いていた。
使ってない客間があるが、ルークの部屋に泊まるらしい。
その「高校生らしい」仲の良さがアッシュは羨ましくもある。
アッシュも友人はいるが、そこまで踏み込んで仲は良くない。
周囲から一目置かれ、一方的に壁をつくられているのをアッシュは感じている。
ガイを介して顔馴染みになったギンジの方がずっと馴れ馴れしく接してきて、同じ年らしい気の置けない会話が出来る。
ルークも……ガイと同じクラスになり、かなり落ち着きをみせた。
幼少時はいつも周囲を見渡し、落ち着きのない子どもだった。
金髪を見つけたら後を追いかけ、声をかけては、肩を落として戻ってくる
あいつあの頃から金髪フェチだったな。ガイと友人になってからは、その奇行もぴたりと収まってくれて、本当に有りがたい。
そうこう考えているうちに、ルークの部屋にたどり着く。

扉を叩くと「はいって!」と中から声が掛かる。
扉をあければ、そこにはベッドの上に立ち、互いの手をがっちり組み合っている二人がいた。
「………プロレスでもしてるのか?」
「にたよーな事するつもりだったけどな!ガイがな!」
「なんで俺の所為になるんだ!あの時はうっかり流されたけど、今は事情が違うんだ!」
「事情も何も俺はやり方知ってるってーの」
「ネット社会舐めるなよ。んなもんググればすぐわかる」
「んな薄っぺらい知識でやられる方の身になれ。経験がものをいうんだよ!」
「経験?お前、初めての時俺がどれだけ流血したかわすれたとは言わせないぞ」
「いーや、こっちはどんだけ待ったと思ってんだよ!待たされた方が上だ!はい、決まり!」
「勝手に決めるな!」
組み合った手はプルプル震えており、二人の本気がみてとれる。
「おい、俺を呼んだ理由は」
自分の存在を忘れ、プロレスごっこに興じる二人に、アッシュは苛立たしげに声をかける。
その声に一時休戦とばかりに、組み合っていた手を下ろし、ベッドから二人は下りるとアッシュに詰め寄る。
「なあ、アッシュ。ガイと俺、どっちが女顔?」


双子の弟の突飛な言動には慣れていたつもりだが、唐突に繰り出されたその言葉に一瞬思考が停止する。
「正直に、な。アッシュ」
「言えよ、ほらっ!」
二人の並々ならない真剣さに、アッシュは少し腰が引ける。
じっと自分を見詰める二人の顔を見返す。甘いが端正な顔立ちのガイと、整ってはいるが幼さが残るルーク。
どちらが女顔と言われれば、一目瞭然である。
「ルークの方だろ」
「っしゃー!!!」「ばっ。この馬鹿!!」
アッシュの言葉に二人は好対照な反応を示す。ガイはガッツポーズで、ルークは頭を抱えて叫んでいる。
「あのなあ、俺が女顔って事はお前も女顔って事だぞ!わかってんのか。だからわざわざお前を呼んだってーのに!!
お前は勉強ができても、ほんっっとうに馬鹿だよな!使えねえええええ」
「んだと!大体いきなりお前が」
「いやあ、アッシュ。俺はお前を信じてたよ。損得勘定せずに、物事の本質を見極めれる男だって」
怒鳴り返そうとしたアッシュの肩をガイが抱き寄せて、嬉しそうに褒めちぎる。
何故かわからないが、ガイからこのように親しげな態度や、褒められると、アッシュは嬉しくて落ち着かない気持ちになる。
ルークに噛み付く気持ちも霧散したアッシュは、にこやかに笑うガイに
「本当に有難う。また後で」と退室を促され、素直に従う。


扉を閉める寸前、また取っ組み合いながら
「納得いかねえ、やっぱり俺が上だ」「いーや、今度こそ俺が」とまたプロレスごっこが始まったようだ。
部屋に戻る廊下を歩きながら
「で、なんで女顔?上?」
とアッシュは小首をかしげた。
そして夕食時、にこにこと満面の笑顔のルークと、そのとなりで座るのさえつらそうなガイをみて
どうやらプロレスはルークが勝ったようだな、と当たらずとも遠からずな事をアッシュは思いながら前菜に手を付ける。



結局現世でも流されてしまったガイです

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