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小話
襲い受 前編
抜けるような青空を見上げて、ルークはため息を零す。
その隣に佇むナタリアもいまにも重い息を吐き出しそうな面持ちだ。
「なあ、ナタリア。俺たち、このままでいいのかな」
「……仕方ありませんわ」
その言葉にルークは弾かれたようにナタリアを見据えると、抱え込んでいた感情を迸らせる。
「だけど…っ、だけどこのままじゃ俺たち!!」
「仰らないで!」
ナタリアの強い言葉に、はっとした後、小さく力なく「ごめん」と呟く。
だがルークのその言葉に、今度はナタリアがゆっくり頭を振る。
「いいえ、私の方こそごめんなさい」
二人の間に沈黙が落ちる。
終焉がすぐそこまで迫っている。ぎゅっと拳を握りこむと、ルークは、重くなった身体をゆっくりと動かす。


*******



避けられている。
ガイは腕を組んで、じっとルークを見据える。
その視線に気づいたのか、振り返り、だが視線の主がガイだとわかるとさっと顔をそらす。
こんな状態が一週間も続いている。
いい加減痺れを切らして、前を歩くその腕をひっつかまえて問いただしたいところだ。
だが、それを躊躇わせる程にルークは沈痛な面持ちをしているし、それにナタリアがそばにべったりとひっついていてそれもままならない。
気づけば眉間に寄る皺を指でもみながら、ガイは前方をみる。
ガイが言うほど「べったり」ではないにしても、ルークにしては珍しくナタリアと終始会話をしている。
幼馴染として適切な距離を保ちつつも、何やら熱心に話し込む様子にガイの眉間の皺は益々深くなる。
ケテルブルクの高級ホテルで、この地に立ち寄る目的をすませる。1Fロビーまで降りると、そこにはノエルが待っていた。
「悪天候のため飛行は難しい状態です」
そう告げられ、ロビーの窓に目をやると、外は真っ白に吹雪いている。
今日はこのままホテルに泊まろうという流れになったとき、ガイは心中で、よし、とガッツポーズをとった。
部屋割りの際いささか揉めたが、結局いつものようにルークと二人部屋となった。
パタンと扉をしめると、さっさと自分のベッドをきめたルークが荷物を下ろす。
その背に向かってガイは問いかける。
「俺を避けてないか?」
弾かれたように振り返ったそれは、図星をさされた時のものだった。
「さ、避けてねえよ!」
言葉まで詰まって、バレバレである。
ガイの表情は険しいままで、思わずルークは胸の中で構える。ガイとの付き合いは長い。もっといえば関係性もかなり深い。もっともっとストレートにいってしまえば恋人関係にある。
だからこそ「アレ」がバレるわけにはいかない。ガイ相手に「アレ」がバレたら……少し想像しただけで、ルークはぞっと背を震わせた。
「俺、風呂、入ってくる!!」
着替えを掴むとそのまま浴室に向かい駆け出す。
「お、おい、ルーク」
ノブをつかんだ所でピタリと足を止め、そしてゆっくり振り返り
「ぜーーーーったい入ってくんなよ、わかったな!」
と、声を張り上げ、そのまま拒絶するように乱暴に閉めた扉の先に消えた。
ガイは、呆然とその成り行きを見守り、それから、はっと我に返る。
おかしい。何かを隠している。
ルークが俺を嫌うわけがない、という揺るがない自信をガイは持っている。だからこそガイは考える。
ルークがあんな態度をとるのには訳があるはずだ。
そしてそれはナタリアが関わっている。しかもかなり深く、だ。
気が緩むと眉間に深く刻まれてしまう皺をガイは指で揉みながら、色々画策する。
ダテに七年間ルークの面倒をみてきたわけではない。つつけば、益々殻に閉じこもって拒絶するのは目に見えている。
だが、だが、だが。
ルークに避けられた状態がこれ以上続くのは、ガイにとって我慢が出来ないことだ。
じっと宙を見つめて、それから、よし、と意を決して立ち上がった。


浴室の鏡の前にたち、ルークはまた深く吐息を落とす。
せっかくガイと二人部屋だってのに。ちくしょう、なんでこんな事になったんだ。
そろそろ限界だ。ガイに触れない日々が長すぎて、心身ともに限界を訴えている。
だが、今、触れるわけにはいかないのだ。
キスくらいなら、と考えたこともある。だけど、今までキスだけで済んだ試しはない。
触れるだけが、いつの間にか角度を変え、唇を割って舌を差し入れ、それから柔らかな口内を嘗め尽くしていると、どんどん身体が熱くなり腰に手をかけひきよせる。
………そう、引き寄せて抱きしめあうんだよなあ。はあ、とまた深い息を落とす。
ジレンマをかかえたルークは、がっくり肩を落としてドライヤーに手をかける。
熱風を髪にあてながら、ガイに触れたい、もう限界。だけど。と思考の迷路を彷徨っていた。


浴室の扉をひらいて、つとめて平静を装ってルークは同室者のガイに声をかける。
「風呂空いた、……え」
驚きに言葉が途切れる。
部屋は暗闇に包まれていたからだ。
え、なんで?とルークは戸惑いが先に立つ。ガイが先に就寝したとしても、風呂から戻るルークを気遣い、明かりを落とすことはない。
もしかして停電?でもさっきまで浴室は。
ルークの思考は、暗闇の中腕を掴まれた事で途切れる。
掴まれ、引き寄せられ、その腕の中に抱き込まれ。
ほんの一週間程なのに、ひどく懐かしく、そして渇望していた彼の匂いに陶酔する。堰を切ったように欲望が溢れ出す。
幾度となく重ねた身体だ。どの角度で顔をあげれば唇に触れれるか、など暗闇の中であろうと手に取るようにわかる。
暗闇の中、仰ぎみるように顔をあげた時、はっとルークの理性が蘇った。
「だめ、ダメだって。おい、ガイ」
腕の中で身を捩らせて抵抗するルークに、ガイはそっと抱擁を解く。
「……わるい」
その声はあまりに力無く、ガイを傷つけてしまった、とルークは胸を痛ませた。
「あ、ち、違う、イヤじゃない。俺も、その、ガイとはやりたい。我慢できない」
暗闇で表情が見えないからこそ、いつもより素直に言葉が出てくる。
「でも…ダメなんだ」
「どうして」
拗ねたように返すガイに、ルークは逡巡する。
ガイの誤解を解きたい。だけど。アレを告げれば、ガイは……
「だって、その……一週間!あと一週間待ってくれ。そうすればきっと」
「待てない。また一週間もお前に触れられないなんて、我慢できない」
常ならば有頂天になるガイの言葉だ。実際、今もこの勢いで押し倒したいくらいだ。あと明かりもつけて、今ガイがどんな表情でこれを口にしているのかも拝みたいくらいだ。
だけどだけどだけど。
ルークの躊躇いをどう誤解したのか
「悪かった。ごめんな、お前を困らせて」
と寂寥を滲ませながらも、無理にいつもどおりになろうとするガイの言葉に、ルークの胸はズキリと重く疼く。
明かりをつけようと動く気配を察して、ガイの腕をつかむ。
「ち、違う。あのな、俺……」
ごくりと一度唾を飲み込む。ふう、と呼吸を整えて、顔を俯き、抱えていた秘密をガイに告げる。

「……太ったんだ」

後編


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