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小話
拍手ログ 現代パラレルルクガイ2 前編
現代パラレル 短髪ルーク×ガイ
高校生と大学生 家庭教師もの
前拍手文の続き


ガイがアパートに帰ると、扉の前に制服姿の少女が佇んでいる。
「ティア、どうしたんだ」
声をかけられたティアは振り向くと、その先にガイの姿があって、ほっと安堵の息を漏らす。
「ガイ、良かった。バイト先を訪ねたら、あなた二週間前にバイトを辞めたってきいて」
「あ、連絡してなかったな。ごめん、無駄足を踏ませてしまったね」
駆け寄って申し訳なさそうにするガイに、ティアは微笑みながら頭を振る。
「ううん、いいの。それよりバイト辞めちゃって大丈夫?」
小首をかしげて尋ねる幼なじみの顔は心配の色が濃く差している。ガイは学費以外の生活費はすべて自分で賄って生活している。
大学では研究や泊まりこむ事もあり、バイトの時間や数にも限りがある。そんな中でも融通をきかせてくれたカフェのバイトはガイにとってかなり有り難い存在だったのをティアは知っている。
「まあ、なんとかね。今は家庭教師のバイト一本なんだ」
「ガイが家庭教師?教え子を甘やかさないようにね」
ふふっとおかしそうに笑うティアに、癖の後頭部を掻きながら「まあ、気をつけるさ」と苦笑いをむけた。
「あ、これ。兄さんから。出張のお土産みたい。兄さんも心配していたわ。実家にも少しは顔を見せたり、連絡をいれてあげてね」
手にしていた紙袋をガイに渡そうとして、ティアははっと気づいてドアノブにかける。
「気を使わせて悪いね」
先程よりティアとの距離が離れているガイが、苦笑いを浮かべている。
「いいの。慣れっこだもん」
「中にはいってお茶でも、と言いたいところだが、女の子を男の一人暮らしの部屋に招き入れるわけにはいかないからなあ。
わざわざ足を運んでくれたお詫びとお礼に、近場のお店で何か奢るよ」
「あらガイなら大丈夫でしょ。体質的に」
ガイの女性恐怖症をからかうティアの言葉に、眉尻を下げて苦笑いしながらするガイの耳に、聞きなれた声が飛び込んでくる。

「おーい!ガーイ!」
声の方を振り向くと、そこには制服姿のルークが腕を組んで苛立たしい様子で立っている。
「部屋の前でなんで女とイチャついてんだよ」
噛みつかんばかりの勢いで、驚きに目を張るガイに詰め寄る。
「ルーク!お前、なんでこんな所に」
「こっちが聞いてんだろ」
「ルーク、あなた、此処で何を喚いているの」
「おわっ!冷血女じゃねーか。お前こそなんで此処にいるんだよ」
「私はガイに届けものをするために」
「ハア?ガイー?呼び捨てか?なんかえっらい馴れ馴れしいな」
「あのな、ルーク。馴れ馴れしくて当たり前なんだよ、俺たち親戚だから」
はあっと溜息をつきながらの言葉に、ルークが、マジか、とガイとティアを交互に見る。
「貴方こそ、ガイに馴れ馴れしいけれど、一体どこで知り合ったの」
「ガイは俺の家庭教師だ」
文句あっかとばかりに胸を張るルークをまじまじと見ると、ティアは額に手を当てて深く溜息とつく。
「やっぱり、教え子を甘やかしているようね」と呆れを含んだ言葉を漏らした。


ルークが学校帰りにガイのアパートを訪れたのは、両親が旅行に行っているのでアッシュと二人で夕食を食べるのは憂鬱だ。
だから、ガイも来い。ラムダスには一人増えることは伝えているから、ガイが来ないと料理が無駄になる、それは勿体無いだろ。
ついでに親父もいないから、安心して家に泊まっていけばいい。
という、いつものルークらしい素直な衝動だ。この事を伝え、有無を言わさずに連れて行く気で迎えにきたのだ。
ガイが「ティアと今からお茶をするんだ」と断りを口にすると、ええええーと盛大に膨れてみせた。
「じゃ、俺もいく。それからガイは俺んちに来ればいいだろ」
「なんでそうなる」
「呆れた。あなた本当に子供ね」
二人のやりとりを傍観していたティアが冷たく言い放つ。
アパートの前で喚いていても仕方ない。ルークの主張を受け入れて、近場にある庶民的なお値段のカフェで三人でお茶を飲むことになった。
ブレンドに口をつけながら、互いに簡単な紹介をする。
ルークが学校では生徒会の体育委員長で、ティアは生徒会の会計をしており、予算割り当てのせいで二人の仲は険悪だそうだ。
ルークの主張は「運動部が頑張っているのに、この冷血女は平気で予算縮小してくる」であり、ティアの主張は「限られた予算の中、結果を出している運動部へ重点的に予算を組むのは当然の事だわ」であった。
「それじゃあ弱小部はいつまでも弱小のままになっちまうだろ。俺は努力もしていない幽霊部に金落とせっていってんじゃねえよ。
今は無理でも来年の展望のある部まで予算縮小するのをやめろって言ってるだけだ」
紹介し合う途中で、どうやら生徒会会議の続きがこの場で始まったらしい。仕方ないのでガイは口を挟まずに二人のやりとりに黙って耳を傾ける。
ガイが考えている以上にルークがしっかりと生徒会の職務をこなしている事に少しだけ驚いていた。
いつものように「ったりー」と言って、やる気なさげにしているのではないか、と僅かに危惧したが、すぐさま、でもこいつ口ではぶーぶー文句を言いながらも与えられた課題も真面目にこなすしな、と打ち消した。
そのガイの考えは当たっていたようで、ルークは至極真面目に職務を遂行しているようだ。
真面目すぎて、同じように生真面目なティアと衝突しているのだ。
青春だなあ、とこの頃そういう種類の情熱が失われつつあるガイは、僅かに口元を緩ませながらカップに口をつける。
その時、サラリとティアの肩から流れる髪がガイの目に留まる。
くせのない艶のある長い髪を見つめながら、いつかのルークの言葉が頭の中で蘇る。
『髪の長い女が好きだし、胸だってあった方がいいし』
ルークの好み。それはそのまま目の前の幼なじみに当てはまる事にガイは気づく。
あの時容姿にこそ触れなかったが、幼なじみの贔屓目なしにティアは衆目をひく存在なのは間違いない。
それを認識した時に、ガイは胸の内側に痛みを覚える。その刺すような痛みに、眉をひそめる。
見覚えのある感情だ。先日は隣に住むまだ幼い少女に。そして今日は幼なじみに。
ガイは額に手を当てて、はあっと深くため息を吐いた。
自分の奥に巣食う醜い感情をあまり直視したくない。子どもじみた嫉妬や独占めいた感情を持て余している。
すると、ふと、二人の会話が耳にはいってこない事にガイは気づく。
顔をあげると、二人が申し訳なさそうな表情をこちらに向けていた。
「わ、わりい。つい」
「ごめんなさいね、ガイ。こんな場所で」
慌てた二人の様子にきょとんとするガイだが、先程吐いた盛大な溜息の意図を二人が誤解した事にすぐさま気づく。
萎縮している二人に、殊更陽気な笑顔を向ける。
「今日の実験のレポを考えていたんだ。二人の口喧嘩に加わる気はさらさらないさ」
「口喧嘩じゃねえよ。この冷血女が杓子定規な事しか言わねえから」「規律は必要だわ。誰もがあなたのように好き勝手な事をしたら立ち行かなくなるのよ」
なんとも気の合う事で、と普段なら笑ってからかう所だ。
だが、今それが口から出ればそれは間違いなく嫌味を多く含むことになる事をガイは自覚しているので、黙っておくことにした。


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