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小話
拍手ログ 現代パラレルルクガイ1 前編
※現代パラレル 短髪ルーク×ガイ
※高校生と大学生 家庭教師もの




唸りながら問題に取り掛かっていたルークがシャーペンと机の上に投げ出して
「あー、もうダメだ。わかんねー!!」
と赤い髪をかきむしる。
椅子の背にもたれかかって、「緊張の糸がきれた。もう今日はやめようぜ」と上目遣いにガイに提案する。
「こら、すぐ投げ出さない。さっき解いた問題の応用だから、もう一回じっくり考えてみろ。
さっきのをスラスラ解けたお前なら出来るさ。時間はまだあるからゆっくり考えろ、な」
諭すガイの言葉と声はは優しく穏やかで、ルークが放り投げ広い机の上を転がっていったシャーペンを掴むと、ほら、頑張れ、と微笑みをむけながらルークの手に握らせる。
先程まで「たりー」と、うんざりとした表情を浮かべていたルークだが、今は真剣な面持ちでガイを無言で見つめ、押し付けられたシャーペンを素直に受け取る。
ルークの視線を受けて、ん、どうした?とガイが問うと、ルークは、んんーと今度は顔をしかめて小さく唸る。
ガイの腕を掴んで、痛いくらいに真剣な眼差しをガイに向ける。
ルークの顔面変化に、「もしかすると腹でも痛いのか?」と胸の内で心配を寄せているガイの耳に、とんでもない言葉が入ってくる。
「あいつら金髪フェチだから、ガイ先生、マジで気をつけろよ。あいつらの前で、そんな顔ぜーったいすんなよ」
は?
その言葉を受けて、ガイの脳裏は、は?という言葉しか浮かんでこなかった。


は?で埋め尽くされて思考停止した後、少し頭が冷えて、ルークの言葉をガイは咀嚼する。
えーと、まず、あいつらという言葉は誰を指し示すのか。この広大な屋敷には、彼の家族、つまりはファブレ夫妻と双子の兄アッシュ以外に数多くの使用人が通いや住み込みで働いている。
もしかしてメイドさん達の事を言っているのだろうか。
ガイの戸惑いはそのまま表情に乗る。ルークは焦れったそうに
「とにかく!あいつらに誘われても絶対二人っきりになんなよ!」
「二人っきり…は怖くてなれないな」
女性と二人きりになるのは、なるべく避けたい。何故か二人きりになると問答無用で間合いを詰めてくるからだ。
「ならいいけどさ。ヘタレなアッシュはともかく、親父は絶対ぱっくり食っちまうからさ」
は?
本日、二回目の、ガイの脳裏を全て「は?」の一言で埋め尽くされた瞬間であった。


********


ルークに及ばないながらも、ガイも人よりも裕福な家庭で育ってきた。
だが、大学は工学系に進むと決意して家族にそれを告げた時、椅子から立ち上がって
「男が己の本懐を成し遂げるのに、親から援助を受けることなど恥辱の極み。その道を歩むというのなら、己の労働のみで成し遂げてごらんなさい」
と腰に手をあてながら声高に主張したのは彼の姉であった。
「マリィベル。何もそこまでは、なあ」「ええ、ガイがやりたい事があるならその道に進むことも」
両親の執り成しを「甘いっ!」と一喝し、親の家業をつぐ気がないなら出て行けという勢いだった彼女を周囲はひたすら宥めた。
縁戚関係にある幼馴染一家の手も煩わせ、どうにか「学費の援助は行う。それ以外は全て自分の労働によりまかなう事」という所まで折り合いをつけるにいたった。
元々、趣味以外で浪費する事もなかったガイは、今まで貯めた貯金で、安いアパートを借りて、バイトで生活費を稼ぐ大学生であった。
そんなある日、研究室のネイス教授から「報酬のよいバイトがあるのですが、貴方、やってみませんか」と紹介されたのが、ファブレ家の双子の弟の家庭教師であった。
「しがない学生にバイトを依頼せずとも、スペシャリストの講師を雇える財力はあるのでは?」
ガイの疑問に、肩を竦めてメガネの位置を指で直しながら答える。
「ファブレ家の双子の弟は、かなりの問題児でしてね。今までのやり方では改善の兆しが見えず、ならば年の近い大学生では、と考えたらしいですよ。
そして私の研究室ではあなたが一番の適任ですから」
大学一、いや学会一の変人の世話を、はあっと溜息を吐きながらも辛抱強く付き合える学生はガイただ一人であった。
変人の世話が出来るなら、問題児の世話も大丈夫だろう、と勝手に思われたようだ。
提示された金額は苦学生のガイには大層魅力的で、このバイト一つで充分生活していける。だが、それはあくまで長く続けばの話だろう、とガイは冷静に考える。
指定された曜日にバイトはないので、ま、ひとつやってみますかね、といった軽い気持ちで家庭教師を引き受けることとなった。
初めてルークと彼の部屋で対面した時、予想外にも歓待を受けることとなり「俺がちょっとやる気出せば、先生はバイト続けられるよな。俺、頑張るから辞めるなんて言うなよ」と笑顔を向けられた。
ネイス教授から聞いていた印象とは全く違い、多少我侭な処は見受けられるが、それも年相応の少年らしくて、ガイは微笑ましく感じていた。
時折些細な事で癇癪を起こしていたが、ガイが諌めると「…ちぇ、仕方ねえな」とブツブツ文句を言いながらも、素直に聞きいれた。
それは快挙と言っても過言ではなく、あのラムダスが「これからもルーク坊ちゃんをよろしくお願いいたします」と学生のガイに頭を下げたくらいだった。
ただ当のガイは、坊ちゃんの気まぐれはいつまで続くかわかったもんじゃないぞ、と楽観視せずにいた。大学生の家庭教師が珍しいだけなのだろうと。
だが、半年経ってもその気まぐれはおさまる事はなく、逆に「科学、物理をお願いしてきましたが、数学と自由科目日を加え週4日に来ていただけないでしょうか」と願われた程だ。
おまけに「移動が煩わしいならば、この屋敷に住み込まれても構いません。大学へは車をお出しします。当然その費用はこちらもちで」と一家庭教師へ桁外れの報酬を提示してきた。
週4日は快諾したが、住み込む事はガイは丁重に断りをいれた。
壁が薄い安アパートだが、ファミリータイプのアパートのため家賃のわりには結構な広さがある。一部屋を、趣味のロボットを組み立て飾る部屋にあてられるのだ。
居候する身ともなれば、そんなわけにもいくまい。
それに、お隣は超がいくつもつくほどの親切なタリトン一家で、一人暮らしのガイを何かと気にかけてくれていて、かなり居心地もよいのだ。
住み込みを断ると、ルークは頬をふくらませて「なんでだよ、一緒住めばいいじゃん」と大層腹を立てていたが、ガイが
「大切な人が部屋で待っているから、ここに住むわけにはいかないんだ」
と笑いながら諭すと、この世の終わりとばかりに顔を絶望色に染め上げて、ルークは微動だにせずに立ち竦んだ。

中編


あきゅろす。
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