愛人 読みきり連作 番外編 ヴァン 深淵 後編 中編 ベッドのうえに座り、向かい合ったまま、唇をあますところなく彼の顔に落とす。 くすぐったそうに、僅かに肩をすくませるその初々しい反応が愛らしく、それにおされるようにその先の行為を急いでしまう。 柔らかな感触を楽しんでいた耳朶から離れ、ゆっくりと唇は首筋に触れていく。 シャツの裾から手を差し入れ脇腹を摩ると、小さく身を震わせる。 幼い頃に触れていた時とはちがい、今は明確な意思をもって彼の素肌をゆっくりと掌で撫で回していく。 その掌から、彼が緊張で身体をこわばらせているのが伝わってくる。 「不快…ですか」 問いかける形をとりながら、行為をとめるつもりなどなく脇腹をゆっくりとさする。 俯いたまま、小さく彼は首を振る。 「違う。な、れてない」 ふたり分の体重をうけたベッドの軋む音に掻き消されてしまう程に、小さく弱々しい声であった。 公爵がガイラルディア様をどのように扱っているのかが容易に想像ができる。 瞬時に憤怒の念が湧き上がり、血が沸き立つ。 どろりと澱んだものが身体の奥深くに溜まっていくのを感じる。 衝動をなんとかやり過ごすと、そのまま彼の首筋に吸いつく。 跡を残すのは不用意な行動だとわかってはいたが、止められずにいた。 肩を竦ませる彼に構わずに、吸い上げたところを舌で舐め上げると、紅く色づいた箇所が唾液に濡れている。 下唇を噛み締めて耐えていた彼が、差し入れられた掌が肌を伝って胸の尖りをさぐりあてられると、びくりと身体を震わせる。 ゆるりと指腹で刺激を与え続ければ、弾力を持ち始める。 摘むように、押しつぶすように、緩急をつけて弄っていけば、かみしめた奥歯から「…ぅっ……んっ…」と小さな声をこぼし始める。 シャツを捲り上げると、そこは充血し硬く尖らせている。 滑らかな肌の上に小ぶりな乳首がツンと立ち上がり存在を主張している。舌を伸ばしてゆるりと舐め上げると、びくりと身体を震わせる。 舌先で先端を転がすと「んっ……」と甘い吐息が漏れる。 吸い上げ、舌先を尖らせて優しく押すようにしてみせると、「んぁっ、んっ……んンッ」ガイラルディア様はもどかしそうに身体をよじられる。 切なげに眉を寄せ、かたく目を瞑り、手の甲で口に押し当てあがる色づく声を噛み殺す。愛撫に慣れぬのか、受ける度に身体を硬くさせ反応する。 あまりに初々しい所作と、小さく漏れる吐息の甘さに、官能を刺激される。 ゆっくりとシャツを脱がせ、僅かな抵抗を無視し下衣を下着と共に剥ぎとる。 胸先を転がしていた舌がゆっくりと肌を舐め上げる。温かい湿った舌が肌を這う感覚に、「んっ」と小さく呻く声をあげる。 手を腰の下に挿し入れ、ガイラルディア様の身体を横向きにさせると、ゆるゆると腰から坐骨へ、そして双丘の割れ目へと舌を這わせる。 刹那、身体を震わせて「や、やめっ!!」切羽詰まったガイラルディア様の声があがる。 構わずに固く閉じた秘所を舐める。ゆるりと、縁を濡らしながら舌で蕾を刺激しほぐしていく。 「や……め……ンッ、……ふぅ…んん」 小刻みに震える脚がシーツの波を蹴る。腰を揺らして逃れようとするのを、きつく腕で抑えこむ。 舌を尖らせ、濡れそぼった箇所に挿し入れる。 きつい肉の締め付けを感じながら、内部を舐めると 「ひゃあっ!!や、ヴァ…、ヴァン、やめっ、ろ」 悲痛な声をあげ、ガイラルディア様は激しく抵抗する。 「たの、むから、やめ…」 ガイラルディア様の脚が私の身体を容赦なく蹴り、咄嗟に腕の力が緩んだ隙に身体を起こして逃げてしまう。 「ですが、お身体に負担がかかるのでは」 シーツをたぐり寄せ身体を覆い隠したガイラルディア様が指差す。その先にある引き出しを開けると、クリスタルの小瓶が出てくる。 顔を伏せているため表情は窺えぬが、耳も僅かに見える頬も赤く染め上がっている。 誰がこれを与えているのかを触れずに、その小瓶をあける。ドロリと粘度のある液を掌に落とす。 羞恥に一気に熱を持った身体にそっと触れて、再びベッドに縫いつける。 粘液を秘所の周囲にぬりつけ、ゆっくりを周囲をなぞるはじめる。 また緊張で強張る身体に唇を寄せていく。 引き締まった臀部を舌で味わい、更に下へと移動する。 陰嚢を口に含み舌で転がすようにすると、びくびくと身体を震わせながら制止の言葉を弱々しく紡がれる。 その願いをきかずに、そのまま陰茎を唇で挟むように扱くと腰を揺らめかせ始める。 まだ芯をもたぬそれを口に含みねぶると、弾力のある肉がびくびくと震え質量を増してくる。 「あぁっ…、ンッ…、ンーッ!!……あぁ、…ぅ…」 制止するように私の頭に置かれた手は弱々しく、上がる声は色を帯び、口の中で硬くなった性器は先端から露を零している。 その先端の割れ目に舌を尖らせ、雫を掬うように舐めれば「ひゃっ、ヴァ…アアッ」と悲壮な甘い声をひっきりなしにあげられる。 内部に挿しいれた指で内壁をなぞるたびに、びちゃりという水音があがる。 部屋は、ガイラルディア様の色づく声と熱い息、そして淫猥で粘度のある水音で満たされる。 どのくらいそうしていたであろうか。 口内で一度達したガイラルディア様の性器はすぐさま頭をもたげ、秘所に挿しいれた指の動きに合わせるように腰を揺らし、脚はもどかしげにシーツの波を蹴る。 「ヴァ…ん…」 名を呼び見上げてくる瞳は潤んでいる。頬は上気し、汗で前髪が張り付き、いつもの彼よりも幾分幼さがみえる。だが。 開いた唇の隙間から誘うような赤い舌がちらりと覗かせ、その表情は淫らなものであった。肉欲をさらに刺激し無自覚に男を誘い込む。 ドクリと心臓が跳ね上がり、熱病にかかったように全身が熱くなる。 やや性急に指を差し抜くと「んっ」ともどかしそうな甘い息が漏れる。 それに誘われるように、既に硬くなった自身の先端を窪みに押し当てる。 「んっ……」 息を大きく吐くガイラルディアに合わせるように、ゆっくりと先端を埋め込む。 熱い内壁を押し広げるように、きつい締め付けに痛みを感じながら腰を押し進める。 「あっ……、ヴァ……、あっ……、ンッ…」 亀頭をすべて埋め込むと、ふう、と小さな息を漏らす。 それからじわじわと時間をかけ、熱くうねり吸い付くように蠢く内部に私を馴染ませるように浅い場所で抜き差しを繰り返す。 「あ、ああっ、ヴ…、ヴァン、お、……もっと、お、く」 白い喉を見せるかのようにのけぞり、もどかしげに私の腰に脚を絡ませ、シーツを握っていた手が私の腕に救いを求めるようにすがってくる。 舌足らずに素直に欲を求めてくるその姿は、淫猥で、そして何よりも私を熱くさせる。 理性が焼き切れる衝動のままに、腰を強く掴むと、根元まで一気に突き上げる。 「あ、アアッーッ、」 身体を痙攣させるガイラルディア様の首筋を軽く噛み、勢い良くギリギリまで引き抜き、再び最奥まで激しく腰を打ち付ける。 ビクビクっと触れていないガイラルディア様の性器が揺さぶられながら、精液を迸らせる。 「や、ああっ、まっ…、ああっ!!」 余韻に浸る暇さえ与えずに、激しい抽送を繰り返す。 脚を肩にかけ、膝が彼の胸につく程に折り曲げ、体重をかけるように激しく最奥を何度も穿つ。すると、再びきつく締め上げられ、内部が熱い迸りを求めるように扇動する。 互いの腹をガイラルディア様の二度目の精液で濡らす。 その熱さに誘われるように、私も奥深くに欲望を吐き出した。 身体を清め、倦怠している身体を綺麗に整えたシーツの上に横たわらせる。 「わる、いな」 かすれた弱々しい声で礼を言われ、いいえ、と頭を振る。 寝入るまで、と背をゆっくり撫でれば、気持よさ気に瞼を閉じられる。 このまま腕を掴んで、衝動のままこの屋敷を飛び出し、誰の手にも届かぬ場所へと攫ってしまいたくなる。 だが、激情に駆られて事を為すほど私は愚かでも若くない。そして彼も幼くはないのだ。 「昔のこと、おまえは、どれだけ覚えている?」 眠りがそこまできているのだろう。その口は重く、耳を立てねば聞き逃すほどに小さい。 「私は物覚えがよい方ですので」 「おれは、怖い。過去が、遠くなり、きおく、が曖昧になる事が」 「だから、公爵に抱かれるのですか?」 「……あいつに抱かれれば、憎しみが、復讐する想いが、深く強くなって、いく。 復讐で、手を汚すんだ。身体がどう、汚れようと……」 「悲しいことを仰られるな」 「……ありがとう、ヴァンデスデルカ」 その言葉を最後に、彼の口からは寝息しかあがらなくなる。 掛布を引き寄せ、テーブルのランプの火を消す。 屋敷を出るという選択をあなたは何故なさならい? 何故、復讐する想いが薄れていく? その答えをあなたは持っておいでだ。だが、それに素知らぬ振りをする。 だから私も。 だから、私も気づかぬふりを通しましょう。 静かに扉を閉め、宛てがわれた客間へを向かう。 窓から青白い月光が廊下に差し込んでいる。 静かな夜。私の身に巣食う激情とは裏腹に、どこまでも静かな夜であった。 終 愛人TOPに戻る TOPに戻る |