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愛人 読みきり連作
番外編 ヴァン 新年(前編) ※前編にエロなし
ガイ20歳

窓辺に立ち、空にかかる月を見上げる。
冬の澄んだ空気は月の美しさを際立たせる。
その時、重厚な扉を叩く音が耳はいる。
「ヴァン謡将。毛布をお持ちしました」
「ああ、入りなさい」
そっと扉が開かれ、待ち望んでいた人物が入ってくる。
「いつから寒がりになったんだ」
からかいを多く含んだ声に、私も笑って素直に胸の内を伝える。
「あなたにお会いしたかったからですよ」



キムラスカの新年を祝う行事に、モース大詠師と共に参列する事となった。
モース大詠師がキムラスカ国王に新年の挨拶と共に、キムラスカ王国の預言を読み上げる。
その傍らに立ちながら、預言を重視し、その為にわが主の家族を奪った者達の顔を眺める。
それが契機となり、祖国は私の力を無理に行使し、私達の故郷は沈んだ。
だが、もう憤怒の念は抱かない。預言に縛られた哀れな者達に下る鉄槌は、もうそこまで近づいている。
その時までせいぜい踊るがいい。
ふと、国王に一番近くに立つ貴族に目が止まる。
燃えるような赤い髪。王家筋の公爵、元帥という地位も名誉も所持し、どちからかといえば柔和な雰囲気をもつ国王以上に威厳を常に身に纏っている男。
握られた拳に力が篭る。
湧き上がる殺意を押し殺す事に努める。
あの男だけは、私の手で。

新年祝賀行事の後は昼食会、晩餐会、夜会と城に滞在し、連日顔を出さねばならず、ようやく明日ダアトに戻らねばならないという日に公爵家に宿泊する事が叶った。
夕食後、ラムダスに毛布を所望した。湯浴みの後で構わないと言うと、少し何か考えるような仕草を見せながら、畏まりましたと頭を下げた。
湯浴み後の時間を考えると、私の部屋に女性であるメイドを寄越すのは躊躇いがあったのだろう。
その目算はあたり、毛布をもってきたのは、私の主であるガイラルディア様その人だった。



毛布を受け取ると、その手が冷たさに目を瞠る。
「氷のようですが」
「新年のパーティを連日開いているんだぜ。裏方はもうてんてこ舞いなんだ。俺も今日は皿洗いに従事していたからこの有様だ」
「……火の傍に」
ぐいっと手を掴んで、暖炉の近くに寄らせる。これくらい慣れている、と零すガイラルディア様に、また拒否されるとわかっていながらも言葉を紡ぐ。
「私の元に来て頂ければ、このような下働きのような真似をせずとも」
そして、あの男に身体を開くこともない。
ガイラルディア様は暖炉の火に手をあてながら、寂しげに笑ってみせる。
「もう少し俺の好きにさせてくれるはずじゃなかったか」
ガイラルディア様が何故この屋敷に留まりたがるのか。その理由を私は知っている。
知っているが認めたくはない。
火にあたった事で、じんわりと温かくなってい手の甲に口付けを落とす。
「ヴァン…」
「仰せのままに」
「有難う……」
有難う、に続く言葉は恐らく謝罪の言葉だったのだろう。ガイラルディア様はいつも最後に「ごめんな、ヴァンデスデルカ」と加えていたから。
だが、その言葉は私の口の中に吸い込まれていった。

突然の口付けに、驚いて身を捩るガイラルディア様の身体を強く抱き締めて、抵抗を封じる。
あなたの心を求めても得られないのならば、せめて今、身体だけでも繋がっていたい。
真っ白で上質のシーツの上にガイラルディア様をそっと落とす。
不安げに私を見上げてくる蒼い瞳に、身の内に飼っている獣の匂いを嗅ぎ取らせぬように、優しく言葉をかける。
「ガイラルディア様、嫌ならばこれ以上は」
私がそう言えば、あなたは決して拒否しない事も承知している。何度も何度も繰り返し行なわれてきた事。
屋敷の片隅で、ひっそりと秘密の花をいくつも咲かせてきた。
案の定、あなたはふいっと顔を逸らす。頬は赤く色づいている。
「いいよ。俺もヴァンデスデルカが欲しかった」
身体だけを求められていても構わない。
あなたが、何かを忘れるために身体を重ねたがる事も解っている。
解っていて知らぬ振りをする。あなたも私も。
そっとあなたの衣服に手をかける。


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