創作短編『聖なる夜に〜とある都会の片隅で〜』
F
「ぶえぇ〜、こんなのひどいよぉ」
サボった罰として1人でティッシュを配りながら、巴里はめそめそと呟いた。
辺りはすっかり暗くなり、ネオンの灯りに満たされている。
ケーキの箱を抱えた少女がニコニコと嬉しそうに家族と並んで歩いて行く。
「クリスマスかぁ…いいな。去年はまだ実家に居たから家族と一緒で楽しかったっけ」
昨年――いや、一昨年だったか?
日々の慌ただしさに流されて記憶も曖昧になる。
ふと――目の端に何かがチラついたような気がして空を見上げた。
「あ…雪だ」
ふわり、ふわり…。
雲が垂れ込める夜空から音もなく白いものが次々舞い落ちて来る。
「わ〜、すごーい。ホワイトクリスマスだぁ♪」
一瞬寒さも忘れて無邪気にはしゃぎながら手の平に雪を受け止める。
道行く人々も同じように空を見上げている。
クリスマスの装飾に彩られた街に舞う雪は華やかで美しかった。
寒いのに不思議と嬉しくなる。
1人たたずむ虚しさを忘れさせてくれるような心踊る光景だった。
――そうだ。今年のクリスマスだって1人じゃない。
共に過ごす少年が家で待ってくれている。
「よーしっ、さっさと仕事終わらせなきゃ!」
雪はいつしかやんでいた。
気持ちも新たに、巴里は雑踏に向かってティッシュを差し出した。
―――END―――
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