創作短編『それぞれのゆく年くる年』
今年も君とD
「私はいいよ、お腹いっぱいだから。そうだ、あったかいお茶でも淹れようか」
と勝手知ったる何とやら〜で、急須を出して来て彼にお茶を淹れてあげる。
「ありがとな鈴子。――まだちょっと食い足りねぇけど、外で何か食いたいしな。この辺にしとくか」
とお茶をすすり、
「うまい! やっぱ酒よりお茶の方がいいな」
鈴子は笑って、
「私達にはお酒の良さはまだまだ分かんないよ。――じゃあ私後片付けしとくから、大気支度しておいでよ」
テーブルの上を片付けて布巾で拭く。
「鈴子って気が利くよな」
「このくらい普通だよ〜、自分家でもやってる事だもん」
そう言いながらも、誉めてくれてるんだと思うと嬉しくなった。
大気は居間の出入り口に立ったまま、流し台で食器を洗っている鈴子の後ろ姿をじっと見ていた。
鈴子はその視線に気づいてチラッと振り向き、
「気にしなくていいってば。着替えといでよ」
じっと見られていると気恥ずかしくなる。
大気は何か言おうか言うまいか迷っているようだったが、やがて、
「何か母ちゃん達がさ…嫁さんもらうんなら鈴子みたいな娘にしとけとか言うんだけど」
鈴子の思考が一瞬停止した。
「え―――えぇっ!?」
ボッと赤くなって大気に振り向く。
大気も真っ赤になりながら頭をわしゃわしゃ掻いて、
「あ、いや…何かごめんな、変な事言って。俺着替えて来るわ!」
言った本人も恥ずかしくなったらしく、大きな声でそう言い残すとバタバタと2階へ上がって行ってしまった。
つい出しっ放しにしてしまった水道のお湯をキュッと止める。
静まり返ったリビングに1人、鈴子は自分の鼓動の高鳴りをうるさいほどに感じていた。
大気の両親公認――と思って良いのだろうか?
いやいや、何かの弾みに両親が冗談でそう言ったのかも知れないし、あくまでも“〜みたいな娘”であって、自分を限定した言い方ではなかったじゃないか。
でも落ち着こうとしても、どうしても気持ちが舞い上がってしまう。
(ヤダどうしよう…期待しちゃうじゃん、それって……)
ドクドク暴れている鼓動に、大気が下りて来た時普段通りの自分で顔を合わせられるかと不安になる鈴子だった…。
『迎春』編……【完】
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