創作短編『それぞれのゆく年くる年』
今年も君と@
「ふー……寒いっ」
元旦の早朝から畔原 鈴子(あぜはら すずこ)は自分の家の玄関前に出て立っていた。
初日の出を見るぞ!と意気込んで出て来たという訳でも特にない――すでに時刻は7時半を回り、雲をかき分けながら太陽がゆっくりと昇って来ていた。
そんな冬の朝の景色を何となしに眺めながら、手の平をこすり合わせたりハァハァと息を吹きかけてわずかな暖を取る仕草をする。
そして時折、隣の家の玄関先の様子をチラチラと窺っていた。
「まだ起きてないか、アイツ。帰ろうかな…」
寒さで膝が笑い始めたので小さく呟き家の中に戻ろうとすると、前触れもなくカチャリと隣の家のドアが開く。
鈴子は長い髪を揺らしてパッと振り向いた。
「あ! あけましておめでとう――ございます、おじさん…」
「あぁ、おめでとう鈴子ちゃん。早起きだね〜」
「あはは、えぇ、まぁ…冬の朝の空気もいいなって。元旦だし」
意味不明な事を言ってごまかす。
隣のおじさんは、鈴子の幼馴染みのお父さんだった――気の良い笑顔でニコニコとし、
「今年もよろしくね鈴子ちゃん。うちのせがれが世話焼かせて面倒かけてるけど、まぁ仲良くしてやって」
と郵便受けから新聞を取り出し、
「起きてんだけどね、アイツ。呼ぼうか――おーい!」
「えっ、あ、後でいいですけど…」
と鈴子が答えるより先に、幼馴染み――中村 大気(なかむら だいき)の父は家の中に向かって叫んでいた。
そして息子の名前を呼びながら家の中に引っ込んで行ってしまう。
開きっ放しの玄関先を眺めながら、鈴子はポツンと突っ立っていた。
やがてドタドタと足音がして、スリッパを突っかけて大気が出て来る。
「鈴子じゃん、おはよう! つーか、あけましておめでとう、か。今年もよろしくな」
大気が快活に挨拶して来る。
「うんっ。こっちこそ今年もよろしくね」
鈴子は寒さを忘れ、顔をほんのりと紅潮させて挨拶を返す――普段は一言で済んでしまう朝の挨拶が、年に一度のこの日だけは特別だ。
それが何だか嬉しかった。
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